どつかれてアンダルシア(仮)

2000/11/24 松竹試写室
スペインの人気お笑いコンビの私生活とは?
もっとドタバタを強調してほしかった。by K. Hattori


 舞台の上やテレビの中で息のあったチームワークを見せるタレントたちほど、私生活では仲が悪いらしい。タレントの実態を見るすべなどないテレビ桟敷の観客は、いつもそんな想像をたくましくしている。「SMAMのメンバー同士は本当はどうなのか?」とか「年齢にもばらつきがあるモー娘は絶対に仲が悪いはずだ」とか、その類の他愛のない話だ。こうした表と裏のギャップは、コメディアンの世界になるとさらに落差が激しくなる。横山やすしと西川きよしの漫才コンビも、末期はかなり悲惨なありさまだった。コンビのぎくしゃくが、そのままダイレクトにテレビ桟敷にまで伝わってきてしまうのだからただごとじゃなかった。しかしただごとじゃないお笑いコンビと言えば、スペインの“ニノ&ブルーノ”こそ極めつけだ。何しろこのふたり、テレビ特番で10年ぶりにコンビを再結成した直後、カメラの真ん前で互いに相手をののしりながらピストルを撃ち合うのだから。この映画はスペイン人なら知らぬ者のいない人気お笑いコンビ“ニノ&ブルーノ”の結成から悲劇的な最後までを、その時々の世相を交えながら描いていく。

 監督のアレックス・デ・ラ・イグレシアは、『エンド・オブ・デイズ』より50倍は面白いオカルト・アクション・コメディ『ビースト/獣の日』や、ロージー・ペレスがサンテリアの儀式に熱中する『ペルディータ』という映画を撮ったスペイン映画界の問題児。個人的な思い込みの中で登場人物たちが暴走していく様子が、今回もたっぷりと描かれている。見どころは“ニノ&ブルーノ”が無名の若者からテレビの人気スターへとブレイクして行く成功譚にあるのではなく、表面的には名コンビぶりを見せるふたりが、その裏側で激しくいがみ合い、病的な被害妄想に凝り固まって相手に殺意さえ向ける部分だ。わざわざ隣り合った家を購入して互いに相手を監視し、策略を巡らして相棒より心理的に優位に立とうとするふたり。高額のギャラのほとんどは、この馬鹿馬鹿しい意地の張り合いに費やされる。

 話そのものは簡単。いがみ合ったふたりが後戻りできないところまで対立をエスカレートさせてから和解するというオチも、ありきたりと言えばありきたり。だったらそこに至る前のふたりの対立にもっとスポットライトを当て、徹底してグロテスクなドタバタ喜劇にしてしまうしかない。イグレシア監督の目的も、たぶんそういうところにあるのだろう。ところがこの映画、そのドタバタぶりがちょっとパワー不足。シチュエーションは十分面白いのに、演出面であと一押しずつ足りない感じなのだ。ニノの家でパーティーが開かれている場面は面白かったけれど、この場面もニノの狂気と、その狂気につき合う女たちと、狂気にあえて目をつぶろうとするマネージャーの立場をもっと戯画化すれば、さらに面白い場面に仕上がったと思う。ニノとブルーノの狂気が行き着いた果てに、ふたりの本当の和解があるんだと思う。面白い映画だけに、そんなことがちょっと気になった。

(原題:Muertos de risa)

2001年新春公開予定 シネアミューズ
配給:アーティストフィルム 宣伝:ムービーテレビジョン


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