異邦人たち

2000/11/14 TCC試写室
伝染病で小さな島に隔離された数名の男女の運命は?
日本香港合作のスタンリー・クワン監督作。by K. Hattori


 伝染病発生の知らせで本土との交通が遮断された小さな島で、数名の男女が一夜を過ごす物語。監督は『ホールド・ユー・タイト』のスタンリー・クワン。出演は『チンピラ』『千年旅人』の大沢たかお、『フラワーズ・オブ・シャンハイ』『漂流街』のミッシェル・リー、『ゴージャス』『瑠璃の城』のスー・チー、そして『東京夜曲』『クロスファイア』の桃井かおりなど。日本と香港の合作映画で、映画の中には日本語の台詞やナレーションがたくさん出てくる。

 感染性の強い、しかも一度感染すれば死亡する可能性がきわめて高い伝染病が発生したらしいというのに、登場人物たちはどこかノンビリしていてパニックを起こす様子はない。普通ならこの設定で、人間同士の葛藤が煮詰まっていく展開にすると思うのですが、この映画はあえてそれを回避しようとする。物語の主な舞台が、ゲイの男性が経営する小さなホテルと、そこから少し離れた場所にあるバーに分散していることも、人物同士の衝突を避けるための工夫だろう。映画の中には病気の感染者がついにひとりも登場しないし、特定の人物に焦点を当てて物語をドラマチックに構築していくこともしない。真っ暗な舞台に数人の登場人物を放り出し、順番にスポットライトで照らしては、すぐにまた別の人物にスポットを当てるという繰り返しのようなものだ。

 上映時間は1時間43分。しかしその間カメラは登場人物たちの間をぐるぐる回るだけで、人物同士の間に起きるどんなドラマも記録しようとはしない。おそらくそれぞれにドラマはあるのでしょう。登場人物たちは、それぞれの事情を抱えてこの島にやってきている。そこで「伝染病で死ぬかもしれない」という不安を抱えて肩を寄せ合い、相互に何らかの交流が生まれてくる。でもこの映画はそれを脇に追いやる。登場人物の個別な事情に踏み込んでいくことを避ける。映画の多くの場面でかぶさる大沢たかおのナレーションも、物語を説明するわけではないし、心理状態を告白しているわけでもない。画面に映る状況と、そこにかぶさる言葉は、相互に緊張感や深刻さを打ち消し合っている。このドラマにはおそらく何の意味もないのではないか、という気がしてくる。

 物語云々より、映像表現が突出した作品です。原色をたっぷり使い、スローモーションやストップモーションなどの画像操作で映画の中にアクセントをつける。ハイコントラストで色のにじんだ映像は、時々驚くほど美しい効果を生みだすことがある。ウォン・カーウァイとクリストファー・ドイルのコンビに影響された映像表現ではあるけれど、それとは少し違うオリジナリティも感じさせるのだ。こうした映像はCMやミュージックビデオには向いていると思うけれど、映画の場合はやっぱりドラマがきちんとしていないと途中で飽きてしまう。表面的な意匠にばかり気を取られて、物語の骨が見えない映画というのが僕の印象。早く終わってほしくて、途中からずっと時計をチラチラ見ていました。

(英題:The Island Tales)


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