風花

2000/11/07 シネカノン試写室
落ちこぼれエリート官僚と年増の風俗嬢が北海道ふたり旅。
回想シーンの構成と内容に難あり。by K. Hattori


 満開の桜の下で目を覚ました男と女。男の名は澤城廉司。文部省のエリート官僚だ。彼はなぜ自分がそこに寝ていたのか、さっぱり覚えていない。女の名はゆり子。場末のピンサロで働くホステスだ。酒でしくじって謹慎中の澤城は、ゆり子につき合って彼女の実家がある北海道まで一緒に旅をすることになる。

 人生から落後して「死」に引き付けられている男と女が、ケンカしいしい北海道を旅するロードムービー。主演は小泉今日子と浅野忠信。監督は『お引っ越し』『あ、春』の相米慎二。エリート意識むき出しの文部官僚が、酒を飲み始めると止まらなくなり、へべれけになって記憶が途切れるまでまっしぐら。翌日酔いが醒めると、前夜のことはまったく覚えていない。でもまた飲み始めると、以前酔っていたときのことを思い出す。このキャラクターは、チャプリンの『街の灯』に出てくる金持ちのヨッパライと同じ。飲んべえとシラフの二重人格なのだ。ヨレヨレの酔っぱらいを演じる浅野忠信が最高におかしい。酔っぱらってしまうまでには当人なりの辛さや悲しみがあるのだろうが、一度酔ってしまえばじつに愉快な人柄に豹変。ところが映画が進行するにつれ、澤城の酒がだんだん悪い酒になってくる。愉快な人柄はなりを潜め、酔って周囲に悪態をついたりからんだりするようになる。最初は「酔ってるときはいい人ね」と思って彼と旅をしていたゆり子も、彼がシラフでも酔っていても同じぐらい嫌な奴になったのでは手に負えない。

 ダメ男とダメ女が一緒に旅をして、それぞれの癒しや救済を得るという物語。ただしここに登場するダメ男とダメ女は、望月六郎の映画に登場するダメ人間たちよりもっとダメな連中だ。望月映画のダメ人間は、セックスという部分でまだ辛うじて人間のぬくもりや優しさにつながっている。セックスを通して、ダメ人間が救済を得る。ところが『風花』に登場するふたりは、共に性的不能者です。澤城はインポ。ゆり子は昔ソープに勤めていたこともあるピンサロのホステスで、彼女にとってセックスは金で売り買いするものになってしまっている。こうなると、もはやセックスすらふたりを救うことはできない。ふたりは何の手がかりもないまま、ずぶずぶと深い暗闇へと落ちて行く。底にあるのは「死」。

 暗い話だけれど、映画の印象そのものはそんなに暗くない。それは主人公たちふたりの会話が、ちぐはぐながらも楽しいものになっているからでしょう。彼らはひとりきりだったら、もっとあっさり死を選んでいたかもしれない。暗く冷たい「死」をくぐり抜けて、ふたりは再生する。それはふたりが新しく生まれ変わるための、儀式みたいなものだったんだと思う。

 ただしゆり子の過去を少しずつ観客に明かして行く回想シーンの構成に、僕はちょっと違和感を感じた。回想シーンになるたびに、「これはいつの話だろう?」と少し考え込んでしまい、物語から距離を置いてしまうのだ。話そのものも、ちょっと陳腐だしなぁ。


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