ピッチブラック

2000/11/01 GAGA試写室
不毛の惑星に不時着した人々を襲う暗闇の恐怖。
よくできた『エイリアン』亜流映画。by K. Hattori


 外宇宙を航行中の小型宇宙船が小隕石群に遭遇し、乗員乗客共々辺境の惑星に不時着。この事故で乗員乗客の多くが死亡し、生き残ったのは女性副操縦士のフライと数名の乗客たちのみ。その中には護送中の脱獄囚リディックと、彼を捕らえた刑事ジョンズの姿があった。リディックは隙を見て逃走。彼を捜し回る人々は、遠い昔に見捨てられた入植地を発見する。だが入植者たちの姿はどこにもない。彼らはどこに行ったのか?

 脱走した囚人によって残された人々が危機に陥るという話かと思いきや、じつはその惑星には脱走犯以上に凶暴な未知の生物がおり、人々は力を合わせてその脅威に対抗するというSFアクション映画。一言でいってしまえば『エイリアン』の亜流映画だが、いくつも作られたこの手の映画の中では面白い方だと思う。監督・脚本はB級SF映画『アライバル/侵略者』のデヴィッド・トゥーヒー。彼は『エイリアン3』の脚本にも一時期関わっていたことがあるというから、案外今回の映画はその頃暖めていたアイデアがもとになっているのかもしれない。逃亡犯リディックを演じているのは、『プライベート・ライアン』のカバーニ二等兵役や、『アイアン・ジャイアント』で巨人の声を演じたヴィン・ディーゼル。他の出演者は、どこかで見たことはあるけど名前がわからないような無名のキャスト。エイリアンのデザインを担当しているのは、『ID4』や『ゴジラ/GODZILLA』のパトリック・タトポロス。

 タイトルの『ピッチブラック』とは「漆黒の闇」という意味。主人公たちが不時着した惑星は3つの太陽によって常に照らされているのだが、22年に一度だけ日食が起きて地上は暗黒に包まれる。それを待ちかまえていたように、地下の洞窟に隠れていた夜行性の異生物が地上に這いだし、地上の暗闇を我が物顔に暴れ回るのだ。このあたりの展開は、エイリアンの存在を知らない入植者が多数犠牲になる『エイリアン2』と同じアイデア。

 映画の見どころは、音波と匂いで物体を関知するエイリアン、目に特殊な手術をしているリディック、そして非力な人間たちの視点を、それぞれ特殊効果で描き分けている部分。サーモグラフィーのようににじむリディックの視点と、砂嵐のように不鮮明なエイリアンの視点は特にユニーク。こうした複数の視点の挿入で、「暗闇からモンスターが襲ってくる」という使い古されたアイデアも、多少目先の変わったものになっている。

 見どころはアクションシーンだからそれ以外は付け足しみたいなものかもしれないが、登場人物たちの人間的な成長があまり練られておらず、決まり切った誰にでも予想のつく展開になっているのは残念。こうした決まり事すら守れない映画は多いので、これでも一定水準はクリアしていると好意的にとらえることもできるのだが、モンスターとの格闘シーンが面白かったわりにはドラマ部分が超薄味なのはもったいない。リディックの危険な匂いが、途中から消えてしまうのが一番残念だった。

(原題:PITCH BLACK)


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