燃える男 長島茂雄
栄光の背番号3

2000/10/31 Bunkamuraシアターコクーン
(東京国際映画祭/ニッポン・シネマ・クラシック)
戦後プロ野球界のスーパースター長嶋茂雄現役最後の日。
映画としてはよくできてると思うけど……。by K. Hattori


 今年のペナントレースで巨人をセリーグの覇者へと導き、ダイエー王監督との“夢のON対決”でも勝利した長嶋茂雄監督。この映画はその長嶋監督が、今から26年前の昭和49年、現役選手として最後の日を迎えるまでを描いたドキュメンタリー映画。長嶋が現役最後のペナントレースを迎えたのは、巨人が9年連続リーグ優勝を遂げた黄金時代が終わったのと同じ時だった。この年ジャイアンツはV10を逃し、優勝を中日にさらわれる。シーズン最後となった10月14日の試合は、ペナントレースも終わった消化試合。しかしそれでも、後楽園球場は“ミスター・ジャイアンツ”長嶋茂雄の最後を一目見ようとする観客で埋めつくされた。映画は巨人がまだ優勝への最後の戦いを続けていたシーズン終盤、長嶋が現役選手として最後の試合をひとつずつ噛み締めるようにプレイする様子を追いかけると同時に、長嶋の生い立ちや野球選手としての歩み、ファンの目に焼き付いて離れない名勝負の数々などを紹介して行く。映画の最後は当然、「我が巨人軍は永遠に不滅です!」という名台詞。

 東京国際映画祭「ニッポン・シネマ・クラシック」の中での上映。映画の上映時間は44分だが、上映前に元巨人選手で現在はタレントの中畑清と、漫画家やくみつるのトークショーが1時間あった。じつは映画よりこのトークショーの方が面白くて、ほぼ満員だった場内は爆笑に次ぐ爆笑。何が面白いかというと、数々の長嶋迷語録とエキセントリックな行動の数々が、それを見聞きした当事者の話として語られるのが面白い。もっともこうした話は長嶋茂雄というキャラクターを理解する助けにはなるけれど、映画を理解する助けにはまったくならなかったりもする。この映画は「プロ野球界のスーパースター」としての長嶋茂雄を描いているのであって、なんだかよくわからない言動が多いけど憎めない変なオジサンとしての長嶋茂雄を描いているわけではないからだ。

 僕は昭和41年生まれなので、長嶋引退の年はまだ8歳。もの心がついて野球のルールを覚えた頃には、長嶋はもう引退して巨人の監督になっていた。巨人のV9時代やON砲というのはテレビマンガ「巨人の星」の中の出来事であって、僕は自分の実体験として「プロ野球選手の長嶋茂雄」を知らなかったりする。ところが長嶋引退の3年後、王貞治がハンク・アーロンのホームラン世界記録を越す756号本塁打を放って国民栄誉賞の受賞者第1号になったのはよく覚えている。わずか数年でこの違い。スポーツの世界での出来事というのは、その世代に生きた人でなければわからないものなのだ。

 『栄光の背番号3』は確かによくできた映画なのだが、これはあくまでも長嶋引退の年に、同時代の人々に向けて作られた映画だと思う。長嶋現役時代をリアルタイムに生きた人なら、この映画に登場する数々の名場面を観て、その時の興奮や感動を蘇らせることができるのだろう。でも僕のようにそうした原体験がない者は、ここから何も感じられないのではないだろうか。


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