ただいま

2000/10/27 TCC試写室
はずみで姉を殺した妹が17年ぶりの帰宅。
北京の町の変化ぶりがすごい。by K. Hattori


 北京の下町裏通り。再婚者同士だが仲のいい中年夫婦。娘がふたりいるが、それぞれの連れ子で血はつながっていない。両親は相手の連れ子にどこかよそよそしいところが残っているが、姉妹の仲は悪くない。姉のユー・シャオチンは大学目指して受験勉強の真っ最中。妹のタウ・ランは16歳の高校生。だがある日、ちょっとした口論からかっとなった妹は、誤って姉を殺してしまう。それから17年。模範囚として獄中生活を送っていたタウ・ランは来年の正式な出所を前に、旧正月の一時帰省を許される。だが北京市内に到着したバスを向かえる家族の姿はない。女性刑務官のシャオジエは、バス乗り場で途方に暮れるタウ・ランの姿を見つけ、彼女を実家まで送り届けようとする。だがかつて住んでいた住所を訪れたふたりは、そこが再開発で瓦礫の山になっていることを発見する。近くの警察で家族の転居先を調べたふたりは、いよいよタウ・ランの両親宅を訪ねるが……。

 『東宮西宮』『クレイジー・イングリッシュ』の張元(チャン・ユアン)監督が、テレビ番組のための取材で、囚人と家族の再会場面を何度も見ているうちに思いついたという物語。出所を喜ばない模範囚。囚人を迎えにこない家族。そこには他人には語れない、家族だけのドラマがある。1時間半ほどの映画で、主人公のタウ・ランが姉を殺して刑務所に送られるまでのエピソードに30分近い時間を割いている。囚人とその家族や癒されることのない心の傷を描く前に、傷つく前の家族像を観客にたっぷりとアピールしておくわけだ。姉殺しのタウ・ランが家族のもとに帰れないでいる理由は、事前の経緯をよく知っている観客にとって自明のこと。しかし彼女に付き添って両親のもとを訪れた若い刑務官には、そんな事情など想像もできない。苦悶の表情を浮かべる父親に向かって、刑務官は「彼女は模範囚でした。社会復帰のために家族の手助けが必要です」と教科書どおりのコメントをするしか能がない。今自分が連れ帰った模範囚が、17年前、目の前にいる老人の愛娘を殺したというのに。

 この映画のモチーフはかなり特殊なものだが、扱っているテーマは「愛し合っているのにうまくいかない家族」という、どこにでもある平凡なものだ。タウ・ランは大好きな姉を誤って殺してしまうし、女刑務官は父親と折り合いが悪くて実家に帰りにくそうな顔をしているし、リンタクの男は新しい仕事に妻の理解がえられないと嘆いている。家族といっても、みんなが面白おかしく、愉快に平和に暮らしているわけじゃない。人間同士だもの、いろいろありますよ。そんなイロイロがあったとしても、やっぱり家族は温かい。お正月には家族みんなで食卓を囲むのが幸せというものなのです。

 分かり切った決着に向かって右往左往する話でも、ストーリー展開はかなりベタベタ。でもこのわかりやすさが観客の安心や満足感を生み出すんだと思う。欲を言えば女性刑務官がこの出来事を通してどう成長したか、もうすこしエピソードを膨らませてもよかったと思う。

(原題:過年回家 Seventeen Years)


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