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コード

2000/10/26 TCC試写室
子供を手に入れるため妊婦を誘拐した夫婦。
ジェニファー・ティリーの狂気爆発。by K. Hattori


 ダリル・ハンナ演じる主人公アンは、就寝中に何者かに誘拐されて犯人宅の地下室に監禁される。誘拐犯はアンが通っていた産婦人科の医師フランクとその妻ヘレン。子供に恵まれなかったふたりは妊娠中のアンを監禁して子供を産ませ、それを自分たちの子供として育てるつもりなのだ。ふたりは入念に計画を練り、アンの失踪を事故死に偽装。出張中で留守だったアンの夫も妻の事故死を信じ、もはやアンを助け出そうとするものは誰もいない。誘拐犯のふたりは、アンが子供を産みさえすれば彼女を殺すだろう。だが太い鎖で地下室に固定されたアンは脱出することもできず、いたずらに時が流れてしまう。

 誘拐犯夫婦を演じているのは、『バッファロー'66』のヴィンセント・ギャロと『バウンド』のジェニファー・ティリー。アンの夫を演じるのは、『ダブル・ジョパディー』や『英雄の条件』の冷酷な男役で目下売り出し中のブルース・グリーンウッド。最近は『愛ここにありて』の父親役や『13デイズ』のJFK役など、知的で思慮深く温かみのある役でもその魅力を発揮している俳優で、今回はどちらかというと後者の役になる。この映画は規模も話の内容も思い切りB級なのだが、出演者だけはやけに豪華だったりするのが不思議だ。

 誘拐犯夫婦のキャラクターが強烈。かつて念願の子供を妊娠したものの、用水検査の結果胎児の異常が発見され、夫フランクの手で中絶手術を受けたというヘレン。彼女はその結果として二度と妊娠できない体になる。子供を望みながら健康な子供を妊娠できず、それどころか子供を授かる機会を永久に失ってしまったヘレンは、おそらくその心の傷が原因で精神のバランスを崩している。夫のフランクは自らの手で我が子の命をつみ取り、妻を妊娠不能の体にしてしまったという負い目がある。ふたりは強く愛し合うがゆえに相手を責めることもできず、ただひたすら「自分たちの子供を何としても手に入れたい」という願いだけで強く固く結びついている。

 子供を望みながら恵まれなかった二組の夫婦が対決する物語だが、両者の間には同情や共感というものがまったくない。不妊で悩む夫婦は大勢いるが、その悩みや苦しみはそれぞれ個別のものであり、同じ境遇の相手に対する思いやりやいたわりが生まれるとは限らない。これはどんな痛みや苦しみについても、同じことが言えるかもしれない。誰しも自分の痛みや苦しみが最初に癒されることを願っている。そのためには他人が痛みを感じようが苦しみを味わおうが構わない。それが人間の残酷さというものかもしれない。人間は他人の不幸には鈍感で無関心なのだ。監禁され命の危険を感じているアンの叫びは、誘拐犯夫婦の家の外には届かない。妻を気遣う夫の苦しみは、警察にも友人にも伝わらない。

 ダリル・ハンナは『闇を見つめる瞳』という映画で、我が子に執着する殺人犯夫婦の片割れを演じている。今回はその意趣返しのような映画。サスペンス映画としては、まずまずよくできていると思う。

(原題:HIDE AND SEEK)


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