BROTHER

2000/10/25 SPE試写室
北野武がアメリカで撮影した日英合作ヤクザ映画。
中身はいつも通りのたけし映画。by K. Hattori


 北野武9本目の監督作であり、アメリカでのロケや現地キャストを盛り込んだ、本格的世界進出第1弾作品。プロデューサーにジェレミー・トーマスが参加した日英合作映画だ。主演はビートたけし。ヤクザ同士の抗争で組織を追われた男が単身アメリカに渡り、現地にいた弟やその仲間たちと共に、日本風のヤクザ組織をゼロから作ってのし上がっていく物語。

 命からがら日本を脱出した落ちこぼれヤクザの山本と、黒人やヒスパニックなどの若者たちとケチな麻薬販売で生活費を稼いでいる弟。このふたりが麻薬売買の元締めと対立したことからあっという間にその方面で名前と顔を売り、めきめきと頭角を現していくくだりは痛快。対立グループから地域の利権を奪い、瞬く間に潤沢な資金を手に入れる山本たちのグループ。力のあるところには、金と人が集まってくる。日本からも山本を慕って、腹心の舎弟がアメリカに渡ってくる。くたびれたストリートギャング風の服装はスーツに替わり、白いリムジンを乗り回し、巨大な事務所を構え、人も増えるし女もできる。この前半部分は、まるで「次郎長三国志」の世界。無為徒食の男が、己の才覚と男ぶりだけで周囲の人間たちを引き付け、ひとかどの人物だと注目を浴びるようになる。だがその栄光は長くは続かない。ひとつのピークの後には、果てしのない転落の道が待ちかまえている。

 アメリカに来た外国人が暗黒街でのし上がり、そのピークから転落するという物語は、デ・パルマの『スカー・フェイス』にも似ている。しかし『BROTHER』の北野武がアル・パチーノと違うのは、彼が権力や金を目指してガツガツしていないことだ。主人公・山本の周囲にいる男たちは、ギャングスターとしてのサクセスに胸を躍らせ、甘い成功の果実を味わっているのかもしれない。でも山本はもっと醒めている。彼はこのアメリカでの組織拡大の動きを、人生を終わる前の大きな回り道として、傍観者的に眺めているようなのだ。山本は組織拡大の絶頂を維持しようとしない。この勢いにどこかで抑制がかかり、潰れてしまうのを予期している。組織の拡大と崩壊は、山本の人生最後の打ち上げ花火。しかし山本の心は、火の玉になって砕け散る自分自身の姿を、少し離れたところから冷静に眺めている。

 『ソナチネ』でも『HANA-BI』でも、北野武監督は主人公が人生を終える前の回り道や道草を描いてきた。こうした「回り道や道草」というテーマは、バイオレンス作品ではない『Kids Return』や『菊次郎の夏』にも共通している。どこかで終わってしまう旅を予期しながら、「まだ終わらない」「まだ終われない」「まだ続けられるのか」「そろそろダメか」「いやまだ行けるか」と自問自答しているのが、北野映画の主人公たちなのだ。『BROTHER』もそうした北野映画の基本を守っている。

 出演者もスタッフもいつもの北野組が中心。出演者の中では寺島進が最高。石橋凌の目つきと身のこなし、大杉漣の少し沈んだ演技もよろしい。


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