キャラバン

2000/10/24 GAGA試写室
ネパール山岳地帯で交易を生業とする少数民族たち。
雄大な風景と骨太のドラマに感動。by K. Hattori


 ネパールの山岳地帯に暮らす村人たちが、ヤク(牛に似た動物)を使ったキャラバン(隊商)を率いて遠く離れた農村地帯まで交易の旅に出る。山間の村は小さな畑しか作れず、そこで実る麦だけでは村人が3か月しか暮らせない。彼らは北方のチベットから岩塩を仕入れ、それを農村に運んで主食である麦と交換する。こうした暮らしが、遠い昔から先祖代々続いているのだ。ある日塩を仕入れて戻ってきたキャラバンが、ひとりの男の死体を運んできた。隊を率いていた長老のラクパが、近道を探そうとして事故死したのだ。ラクパの父であるティンレ老人は、隊のナンバー2だった若者カルマが息子を殺したに違いないと強く非難する。村では仕入れた塩を農村に運ぶ隊を誰が率いるのかで意見が紛糾。大半の者は若いカルマを次の長老に推すが、ティンレは孫のツェリンが長老を継ぐべきだと主張し、孫が成長するまでは自分が後見人になると言い張る。だが高齢のティンレの意見は、村では少数意見だ。占いで出発日が決められるが、若いカルマは仲間たちと共にそれより早く出発することを決める。村はカルマたちを中心とする若手グループと、ティンレを中心とする老人グループに二分される。

 交易によって辛うじて生活が維持されている小さな村で、指導者の地位を巡る意見対立がきっかけとなって、それまで一枚岩だった村がふたつに分裂。村人たちの有機的なつながりが命を支えてきた村で、この分裂は村の存在すら危うくしかねない。村の実質的な働き手である若者たちは、保守的で迷信深い老人たちの方法に異議を唱える若いリーダーに従おうとする。老人たちは長く続いてきた村の伝統を守り、その伝統の範囲内で速やかな権限の委譲がなされることを期待する。だが両者の意見対立は解決しないまま、若手のカルマたちは村を旅立ってしまう。ティンレ老人は老人中心の小キャラバンを率い、4日も先行するカルマたちの隊に追いつこうとする。

 老人と若者の対立。家族の絆。共同体の中での権限の委譲。小さな村に伝わる伝統の意味。自然と人間との対決。人間の生死を左右する運命の不思議さ。旅を通じて成長して行く若者と少年。ネパールの少数民族を主役にした映画だが、映画に描かれているテーマは世界中のどの社会にも共通するものだ。対照的なふたりの人物の対立が、長く険しい旅の中で和解に導かれるという、典型的なロードムービーでもある。シンプルな物語だが、その奥行きは深い。心にしみる場面がいくつもある。

 この映画の中で物語以上に雄弁なのは、シネマスコープの画面一杯に広がる雄大なヒマラヤの風景。シネスコの画面で観ても、その画面が狭苦しく感じるほどスケールが大きい。このスケールがあるから、その中で営まれている人々の暮らしの切実さがよく伝わってくる。自然に比べて、人間はいかにも小さいのだ。監督・脚本のエリック・ヴァリは、『セブン・イヤーズ・イン・チベット』のヒマラヤでのユニット・ディレクターをしていた人物。この映画は絶対に劇場で観るべき作品だ。

(原題:Hymalaya - L'enfance D'un Chef)


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