イマジン

2000/10/18 TCC試写室
殺されたことで神話と伝説の人物になったジョン・レノン。
彼の40年の生涯を描くドキュメンタリー映画。 by K. Hattori


 今から20年前の1980年12月8日。ニューヨークの自宅アパート前でジョン・レノンは射殺され、そのニュースは直ちに世界中に配信された。今から考えると不思議なことだが、その当時の僕はジョン・レノンが何者なのか知らなかったのだ。「元ビートルズのメンバー」というのが、この当時のマスコミ報道でジョン・レノンに冠されていた肩書き。彼は10年前のビートルズ解散以降はしばらくソロ活動をしていたが、'75年に息子ショーンが生まれたのをきっかけに音楽業界から引退し、ハウスハズバンド(主夫)として育児と家事の生活をしていた。'80年に久しぶりのニューアルバム「ダブルファンタジー」が発売されたものの、その当時のジョンはもう過去の人だった。「ダブルファンタジー」が爆発的に売れたのは、皮肉なことに彼が殺されたことがきっかけだと思う。レノンの名前を知らなかった僕も、当時はこのアルバムを買って持っていた。

 ビートルズの解散間際から'70年代初頭にかけて、平和運動の闘士として知られていたジョン・レノン。彼がよりにもよって銃弾によって倒れたという事実が、彼を神話と伝説の人物にしたのだと思う。アルバム「ダブルファンタジー」には「スターティング・オーバー」「ウーマン」「ビューティフル・ボーイ」のような優れた歌が収録されていて、レノンの才能が長いブランクの中でも決して錆びついていなかったことを証明している。でもこのアルバムの中には、平和運動も反省主義も何もない。レノンがこのまま生き続けて活動をしていても、彼は「昔は反戦運動もしていた元ビートルズのメンバー」として、音楽界の中である特定の地位を占めていただけかもしれない。彼が殺されて神話と伝説の人物になったからこそ、「イマジン」のメッセージが聴く人の心を打つという面が確かにあるのだ。彼は青年の面影を残す40歳の若さで死んでしまった。その微妙な年齢は、夢想家であることが許されるギリギリなのかもしれない。

 映画『イマジン』は「反骨の平和運動家」というレッテルを貼られがちなジョン・レノンの人生を、まず第一に「天才的なミュージシャン」という側面から描いたドキュメンタリー映画だ。生い立ち、ビートルズ時代、オノヨーコとの出会いと平和運動との関わり、家庭人としての生活、そして音楽活動の再開、そして悲劇的な最後。この映画を観ていると、ジョン・レノンが40年の生涯の中で、普通の人の何倍もに相当する人生を生きたのだと思わざるを得ない。40歳での死は、ひとりの人間として確かに若すぎる死かもしれない。でもジョン・レノンの人生は、この死によって初めて完結したような気がする。それはイエス・キリストの人間としての生涯が、30代半ばで完結しているのと同じようなものだ。

 自宅の庭をうろつくファンと親しく会話し、彼らを食卓に招くレノンの姿を観ていると、危なっかしくてドキドキしてしまう。でもこの不用心さが、レノンの作品を生みだした原動力になっていたのだろう。

(原題:IMAGINE: JOHN LENNON)


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