ああっ女神さまっ

2000/10/18 松竹試写室
人気コミック原作のOVA版が劇場版にグレードアップ。
OVAを観ていなくても十分に楽しめる。 by K. Hattori


 10年以上前からコミック誌「月刊アフタヌーン」に連載されている原作は、'93年から'94年にかけて5本のOVA作品として発売され、原作同様大人気となる。そのスタッフが再結集して作ったのが、この劇場版『ああっ女神さま』というわけだ。アニメ映画の常で、通常のマスコミ試写はなし。原作やコミックのファンだけで劇場がある程度埋まり、その後のビデオやDVD発売で十分にもとが取れるという計算なのだろう。ターゲットがものすごく限定されているのです。僕は原作もOVA版も知らない「ターゲット外」の人間ですが、きちんと作ってあるものは予備知識なしにいきなり観てもちゃんと面白いもんです。この映画はすごく面白い。ハラハラしてドキドキして、終盤は手に汗握るスリルがあって、ホロリと涙も流させたりして、最後はホッと穏やかな息が付けるハッピーエンドを迎える。うまいなぁ。

 シリーズもののよさは、キャラクターの性格付けがきちんと確定していて安定感があること。前提となるエピソードを知らなくても、こうした安定感はある種のリアリズムとなって観客に伝わってくる。だから僕のような門外漢が映画版の『エヴァンゲリオン』を観ようと、『天地無用!』を観ようと、『カードキャプターさくら』を観ようと、『逮捕しちゃうぞ』を観ようと、登場するキャラクターの性格を一瞬でつかんで物語の中にすんなりと入れる。僕のように劇場版しか観ない人間にとっては、OVAやテレビシリーズというのは劇場版のための大いなる助走。ジャンプする場面しか観なくても、その高さや距離が十分にとれていれば、助走での走りっぷりがきちんと想像できるものです。「劇場版だけ観て意味がわかるのか?」という疑問を持つ人も多いだろうけど、これが不思議とわかってしまうんです。

 この『ああっ女神さまっ』は、映画の開始直後から登場人物をフル出場させている。これはOVA時代からのファンへのサービスであり、同時に初めて作品に接する人に対する説明になってます。この部分さえ乗り越えてしまえば、あとはスンナリと物語に入れる。女神ベルダンディーの前に現れた謎の男セレスティン。ベルダンディー経由で天上界に侵入した謎のウィルス。ウィルスを除去する間、天上界と地上界の回路は一時遮断される。ベルダンディから失われた螢一の記憶。ベルダンディに封印されていた幼い日の思い出。月面に封印されていたセレスティンが、天上界に反逆した事件の真相。これらのエピソードを、ベルダンディと螢一の愛というテーマでつなげて、物語は怒濤のクライマックスに突入する。

 終盤のスペクタクルには、『新世紀エヴァンゲリオン』の影響がありありと見て取れる。ただしこれはビジュアル面での話。物語は劇場版『天地無用!』などとも共通する愛と葛藤のドラマで、ベルダンディの螢一への愛が、最後は地上に生きるすべての生物への愛へとつながっていく展開は見事。「未来を信じろ」というポジティブなメッセージも、単純だけど力強い。いい映画です。


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