閉じる日

2000/09/25 映画美学校試写室
近親相関関係にある姉弟がタブーにしている過去とは?
『ひまわり』の行定勲監督によるビデオ映画。by K. Hattori


ている。ふたりは近親相関関係にある。そんな事情を知ることもなく、拓海に密かに好意を寄せるクラスメートの悠里。姉との閉塞的な関係から逃げ出すように、拓海は悠里とつき合い始める。その頃名雪は、「閉じる日」と題した最新作を執筆中だった。そこには自分たち姉弟と失踪した父親の秘密が、すべてありのままに書かれているという。いったい姉弟と父親に何があったのか?

 姉と弟が裸でベッドに横たわるという、そのままズバリ核心をついたオープニング。壁をはい回るムカデを「殺して!」と言う名雪。拓海は無言のままムカデを叩きつぶし、白い壁に張り付いた死骸の下に小さな字で日付を書き込む。壁には他にも多数の無視の死骸が張り付いたまま放置され、その下にはすべて小さく日付が書き込まれている。この導入部だけで、精神のバランスを崩しかけている姉と弟の奇妙な関係が伝わってくる。

 姉弟の近親相関関係は、この映画の前提であって中心テーマではない。これはある秘密を共有する姉弟が追い込まれている、逃げ場のない状況の象徴的な事例なのだろう。セックスと死を繰り返すことで、ふたりは互いの心に押し込んだ秘密を、言葉にすることなく再確認する。姉弟が何を見て何をしたのか、家の中では口にすることがタブーになっている。だからこそ名雪はそれについて触れた「閉じる日」を、決して拓海には見せようとしない。だが長年に渡って胸の内に押し込んできた記憶は、名雪や拓海の心そのものを深く蝕んでいる。拓海は学校のプールに潜ることで、中途半端な自殺にもにた現実逃避を繰り返す。名雪が小説を書くのも、ある種の現実逃避だったのだろう。だがもうふたりとも疲れ果てている。すべてを隠し通すことは限界なのだ。名雪は封印していた記憶そのものを題材にして小説を書き始め、拓海も姉との関係から逃れようともがき始める。

 名雪を演じているのは、『犬、走る/DOG RACE』で見事な死にっぷりを見せた冨樫真。(なんだかすごく男らしい名前だなぁ。)弟の拓海を演じているのは、『オーディション』『ブギーポップは笑わない』の沢木哲。基本的には、このふたりの関係が映画のテーマ。名雪と拓海の関係から映画が始まり、同じふたりの関係で映画が閉じられていることからもそれは明白だ。しかし物語を引っかき回していくのは、ふたりの間に立ちふさがる悠里。演じている綾花がじつに伸び伸びした自然体で、ぽってりした唇もじつにかわいらしい。今後に注目。

 1時間半ほどのビデオ作品だが、かなりのボリューム感がある映画に仕上がっている。観終わるとお腹いっぱい。ビデオ独特の発色やハレーションまで、すべて物語の味付けにしてしまう福本淳の撮影も見事でした。


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