カル

2000/09/06 メディアボックス試写室
『八月のクリスマス』の主演コンビが再び組んだサスペンス映画。
バラバラ死体の描写がやけにリアル。by K. Hattori


 『八月のクリスマス』で共演したハン・ソッキュとシム・ウナの再共演作は、前作とはガラリと様相を変えたサスペンス・スリラー。次々に起きる猟奇殺人事件。黒いビニール袋に詰められたバラバラ死体が3人分。被害者たちの身体は生きたまま解体され、しかも四肢を入れ替えたり、遺体の一部を持ち去ったりしている。やがて被害者のひとりから、かつての恋人スヨンという女性の存在が浮かび上がる。驚いたことに、殺された男たちは全員が、かつてスヨンと交際していた過去を持っていた。犯人はスヨンのごく近くにいる。それは誰なのか? 犯人は何の目的があって、スヨンと交際していた男たちを次々に殺し、バラバラに解体しているのか?

 一口で言ってしまえば、この映画は韓国版『セブン』です。次々に登場するバラバラ死体の描写はきわめてリアルでグロテスク。キャッチコピーは「a hard-gore thriller」だが、その看板に偽りのない内容だ。直接的な殺人シーンはさほど多くないが、バラバラにされた四肢や頭部の切断面が画面にクローズアップされ、黒いビニール袋から血糊が吹き出すなど、とにかく画面は真っ赤っか。血糊の量だけはものすごいことになっている。

 個々のシークエンスは構成も演出もとてもよくできていて、観ていてドキドキしてくる場面が多い。『羊たちの沈黙』『セブン』などのハリウッド製の猟奇犯罪映画からたっぷりと影響を受けながら、それをきちんと自分たちの手でアレンジし直しているのはさすが。ハリウッド映画をたっぷり食べてしっかり咀嚼し吸収した結果が、ちゃんと血や肉になっている。(この映画の場合、文字通り血や肉が大量に出てくるわけだけれど……。)映画全体から受けるゴリゴリした手触りは、この映画が単なるモノマネのスリラー映画ではないことを示している。特に前半から中盤にかけては素晴らしい出来映えだ。警察の捜査をあざ笑うかのように、次々と発見されるバラバラ死体。犯人は警察の手の内を十分に知りつくしている。たとえ犯人が半ば予想できようとも、そんなことは構わない。このワクワクドキドキは本物だ。

 ただし映画は後半の謎解きになると、急にそれまでの骨っぽさを失ってしまう。それまでに画面に登場したひとつひとつの出来事が、急に軽々しくどうでもいい出来事のように思われてしまう。そしてクライマックス、エンディング、さらにはエピローグ。サスペンス映画のオチとしては、まずまずのアイデアだと思うのだが、そうした出来事がなぜ引き起こされたのかという答えは、この映画にない。なぜ殺したのか。なぜ死体をバラバラにしたり入れ替えたりしたのか。犯人がそういう行動をとらなければならなかった動機や必然性が、僕にはどうしてもわからないのだ。ひょっとしたら映画の中に出てきたのに、僕がそれを見落としたのかな……。

 この映画はサスペンス・スリラーではあるけれど、「サイコ・スリラー」ではない。心理的な恐怖は薄く、あるのは血糊に対する驚きだけ。お化け屋敷です。

(英題:Tell Me Something)


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