ブッシュ・ド・ノエル

2000/09/04 シネカノン試写室
フランスのベテラン脚本家の監督デビュー作。
三姉妹のクリスマス・ストーリー。by K. Hattori


 ダイアン・キートンが監督した『電話で抱きしめて』はまったく面白くない映画だったが、同じような三姉妹を描いていても、このフランス映画はその何倍も面白い。自分の世界を見つけてその中で生きている長女。自由奔放に自分の生活を楽しんでいるように見える三女。姉と妹の間で調整役になるしっかり者の次女。離婚して互いに音信不通になっている年老いた両親。父親は最近体調が悪い。物語のベースとなる家族構成は、『電話で抱きしめて』も『ブッシュ・ド・ノエル』も驚くほど似ている。もちろん違うところも多いのだが、物語の出発点は瓜二つ。しかしそこから『ブッシュ・ド・ノエル』は山あり谷あり千変万化の道のりを経て、最後はタイトルに相応しい洒落たクリスマスの奇蹟物語に仕上げている。

 監督は『ラ・ブーム』や『王妃マルゴ』『パパラッチ』などの脚本家として、フランス映画界で30年以上のキャリアを持つダニエル・トンプソン。今回の作品が監督デビュー作だという。出演者は長女が『恋するシャンソン』のサビーヌ・アゼマ、次女が『美しき諍い女』『ミッション:インポッシブル』のエマニュエル・ベアール、三女が『ラブetc.』以来久々の顔見せになるシャルロット・ゲンスブール。両親役のクロード・リッシュとフランソワーズ・ファビアンもいい味だしてる。監督の息子で共同脚本も担当したクリストファー・トンプソンも、三姉妹の父の隣人役で出演している。

 映画の冒頭は、賑やかなクリスマスの街の風景から、一転して殺風景な墓地の葬式シーンになる。クリスマスの飾り(リース)と葬式の花輪の相似性で、幸福感の絶頂とも言うべきクリスマスと湿っぽい葬式をシームレスにつなぐ面白さ。この落差の大きさで、観ている方はついつい物語にグイと引き込まれる。上手い。この映画は観客に何かを期待させて、それを裏切るタイミングが絶妙です。人物の出し入れが巧みで、それぞれに意外性がある。最初に主要人物が登場する葬式の場面で三女が遅刻してくるというのも、いきなり全員が揃ってしまうより何倍もいい。長女と同居している父親は、いきなり車椅子で登場。これも観客の意表をつく。妊娠した長女の相手を登場させるタイミングや、隣人ジョセフの娘や元妻を登場させるくだりも上手い。長女の恋人を演じているのが『百貨店大百科』や『家族の気分』のハゲた中年オヤジ、ジャン=ピエール・ダルッサンだったり、隣人の元妻を演じているのが『視線のエロス』のイザベル・キャレだったりするのも意外性がある。夫の浮気で苦しむ次女がじつは……、という場面もびっくり。

 物語は二転三転しながら、最後には映画を見始めた時には予想もしなかったハッピーエンドへと向かう。三姉妹の中で特に中心的な役割を果たす人物がいない三頭立て馬車の手綱をうまくさばいて、ゴールまで猛スピードで走らせる監督の力量はなかなかのもの。『電話で抱きしめて』のような凡作と比較するから、この映画がより面白く感じるのかもしれないけどね……。

(原題:La Buche)


ホームページ
ホームページへ