キューバ・フェリス

2000/09/04 シネカノン試写室
『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の下手な亜流映画。
キューバの老ミュージシャンが主人公。by K. Hattori


 明らかに『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』を意識したと思われる、キューバとフランス合作の音楽映画。76歳の老歌手エル・カジョが主人公で、彼がキューバをあちこち旅しながら他のミュージシャンたちと交流を持つというロードムービー。映画の中にはキューバ音楽の源流とも言える「ソン」や「チャングイ」から、最新のラップまで多岐に渡り、まるでキューバ音楽の博覧会。本編はビデオ撮影、音響はドルビーデジタル(ただし今回の試写室はデジタル非対応で効果は実感できず)というフォーマットも、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』との共通点。製作されたのもこの映画の方が後だから、作り手側は『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の成功を見てこの映画のフォーマットを決めたのでしょう。でも僕はこの映画がビデオ撮りであることに不満がある。『ブエナ〜』はスタジオでの録音風景やミュージシャンたちの暮らしぶりを追いかけたドキュメンタリー部分が半分あるから、機動力のあるビデオを使って撮影し、どんどん編集して行くというスタイルに必然性があった。でもこの『キューバ・フェリス』はそういう映画じゃない。この映画でのビデオ使用は、単に経済性だけを重視したもので、ビデオである必然なんてない。

 監督のカリム・ドリディにとっては4本目の長編劇映画。ドリディ監督はパリ歓楽街の裏通りにずんずんカメラが入っていく『ピガール』という映画でデビューした人で、これはドキュメンタリー的な手法でフィクションを撮った意欲作としてなかなか迫力があった。3作目はフランス映画祭横浜で上映された『ルール違反』という映画。これは売れない若い役者がスター俳優たちが集まるアパートに押し入るという話で、いまいち面白いと思えなかった作品。そして今回の『キューバ・フェリス』へと続く。2作目の『バイバイ』は未見だが、ドリディ監督は現実とフィクションの境界線を描く作家だと思う。『ピガール』もメインのストーリーはフィクションだが、風景そのものはやらせなしの実景。スタッフや俳優が、あまり治安のよくないピガール地区に寝泊まりしながら撮影したという映画だった。『ルール違反』も主人公カップルの話はフィクションだが、押し入った先に登場する映画スターを演じるのは本人たち。今回の『キューバ・フェリス』も、現実とフィクションの境界を描く。

 この映画に登場するエル・ガジョやミュージシャンたちは現実の存在らしい。彼らの演奏シーンも、同録でそのまま撮影されている。個々の映像には少しも演出の匂いがしない。しかしここでは撮影スタッフやカメラの存在がまったく無視されている。登場人物たちはほとんどの場面でカメラをまったく無視しながら会話し、演奏している。これは普通のドキュメンタリーではあり得ないことだ。まるでドキュメンタリーのように生々しい映像だが、この映画は登場人物たちがカメラの前で自分自身の役を演じるフィクションなのだ。手法は面白い。でもそれがどうにも中途半端で、映画自体はつまらなかった。

(原題:Cuba Feliz)


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