夢だと云って

2000/09/01 メディアボックス試写室
知的障害を持つ青年と家族の物語かと思いきや……。
映画後半にあるあっと驚く新事実。by K. Hattori


 もうじき二十歳になろうとしているのに、頭の中身と行動がいつまでたっても子供のままのジュリアン。彼の思いがけない行動の数々に、家族はいつも頭を悩ませている。連日のように持ち込まれる近所からの苦情。隣の家の鳥かごから小鳥を逃がし、家の牛小屋の戸を開け放しにして牛を逃がしてしまうジュリアン。家族はそんな彼の行動の尻拭いばかりさせられている。近所の人が役所に通報したらしく、家には民生委員がやってきてジュリアンを施設に入れるべきか相談し始める。老人ホームから戻ってきてたおばあちゃんは、ジュリアンの施設行きに大反対。でも他の家族は、20年続いたジュリアンの世話に疲れ始めている。そんな家族が、ある出来事をきっかけにひとつに結束するという物語。

 この映画を観る人は、障害者を抱えた家族の悩みや度重なるトラブルを描きながら、最後は「そんなお前が大好きさ」というわかりきった解決に結びつける映画だと、即座に最後のオチまで予想してしまうに違いない。トラブルメーカーのジュリアンによって家族がバラバラになりかけるが、最後は彼によって再び家族がひとつにまとまり、前以上に家族の大切さを知る。よくある話だ。この映画も中盤までは、基本的にその流れに沿って展開する。だがいよいよジュリアンが施設に入れられるという直前になって、家族の中でそれまでまったく語られることのなかったある事実が明らかにされ、物語はそれまでとはまったく別方向に展開して行くのだ。この後半部分については、配給会社から内緒にしておいてくれというお達しがでているので詳細に書くことができないのは残念。この映画の魅力の大半は、この後半にある。

 2年前のフランス映画祭横浜で『夢だと言って』というタイトルで公開されたのを観たとき、すごくいい映画だと思った。その後はなしのつぶてだったが、今回この映画がきちんとした形で公開されるのはうれしい。フランス農村地域に開拓民として住みついた家族の生活が、細かく描かれているのも興味深いし、家族それぞれのキャラクターが粒だっているのもいい。印象に残る場面がいくつもあって、今回改めて観ても思わずニコニコしてしまった。ジュリアンの誕生日に、家族みんなで小さなミュージカルみたいなことをする場面も面白い。誕生プレゼントにバイクを買ってもらったジュリアンが、家族の心配をよそに楽々とバイクを乗りこなし、曲がりくねった農道のような道を猛スピードでぶっ飛ばす場面もおかしくておかしくてしょうがない。そしてこうした面白さや楽しさやおかしさをすべて凌駕するものが、映画の後半には用意されているのだ。

 クラシックの既成曲をうまく使った選曲の妙味が、とぼけた味わいを生みだしている。出演者たちには演技初体験、映画出演初体験という人たちが多いのだが、家族の中心になる両親にプロの俳優を配置し、要所をきちんと押さえることで家族のアンサンブルをうまくまとめ上げている。監督はクロード・ムリエラス。うまい!

(原題:dis-moi que je reve)


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