パリの確率

2000/08/31 メディアボックス試写室
セドリック・クラピッシュが砂に埋もれた2070年のパリを描くSF。
その実態は時空を超えたホームドラマ。by K. Hattori


 『百貨店大百科』『猫が行方不明』などで、パリに住む都市生活者の日常にあるおかし味を描き出したセドリック・クラピッシュ監督の最新作は、なんとSFだった。今年のフランス映画祭横浜に出品された映画だが、僕は今年の映画祭を風邪で全欠。過去に日本公開されたクラピッシュの作品は全部観ているし、そのどれも面白と思っていた僕としては、すごく期待していた作品です。今回はクラピッシュ作品の中でも、最も時空スケールの大きな作品。物語は21世紀を迎える現代のパリから、砂に埋もれた70年後のパリまでひとまたぎ。未来のパリは、アフリカのチュニジア砂漠で撮影されたという。主演のロマン・デュリスはクラピッシュ監督の『青春シンドローム』『猫が行方不明』にも出演していたが、今回の映画ではその息子役にジャン=ポール・ベルモンドが出演しているのが見もの。チンピラ然としたデュリスと、貫禄ありすぎのベルモンドの組み合わせが面白い。

 21世紀を数分後に控えた西暦2000年の大晦日。友人のパーティーに恋人のリュシーと出かけていたアルチュールは、彼女から「子供がほしい」と言われて面食らう。彼女のことは好きだけど、子供を作って父親になるなんて考えられない。アルチュールは彼女から離れてひとりトイレに行くが、そこには天井から砂がパラパラ落ちてくる。天井の穴から上を覗くと、上階の部屋は砂に埋もれていた。穴をくぐって上に登っていくと、部屋の中は砂だらけで人っ子ひとりいない。窓から外を見ると、そこには砂に埋もれた町がある。何もわからないまま町を歩くアルチュールは、そこでアコという老人に出会う。彼は西暦2000年大晦日の晩にできた、アルチュールとリュシーの息子だという。

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を両親の側から描いたような映画です。ただしこの映画では、両親の前に未来から息子が現れるのではなく、父親が未来に行って息子に出会う。その世界の中で、自分は既に死んでいる。息子も老人になっている。息子以外にも、孫や曾孫が大勢いる。孫や曾孫は、自分たちと同年輩のお祖父ちゃんが現れたことに大はしゃぎ。しかし問題がある。この大家族は、主人公アルチュールが2000年大晦日に恋人リュシーとセックスし、彼女が妊娠してアコが生まれることで成り立っている。ところがその問題の日から来た本人には、父親になる気がさらさらない。未来は変調を来たし、アコの身体が徐々に消え始めている。

 SF仕立てではあるけれど、この映画が描こうとしているのは『素晴らしきかな人生!』などと共通する「人生を恐れるな」「未来に希望を持て」という普遍的なテーマ。しかしクラピッシュ監督はこの大テーマを大上段に振りかざすのではなく、相変わらずチマチマとした日常描写を面白おかしく描くことに熱中する。物語の枠組みそのものが隅に追いやられ、その中にある人間の喜怒哀楽や馬鹿馬鹿しさ、愚かしさ、臆病さなどを丁寧に描く。これがクラピッシュ流の映画なのでしょう。

(原題:PERT-ETRE)


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