マヌケ先生

2000/08/03 シネカノン試写室
大林宣彦監督が自らの少年時代をファンタジックに描く。
『あの夏の日/とんでろじいちゃん』の姉妹編。by K. Hattori


 映画監督の大林宣彦が、自らの少年時代と初めての映画製作体験を描いた自伝的作品。総監督・原作・編集・音楽(學草太郎名義)が大林宣彦。監督の内藤忠司は元大林監督の助監督で、撮影監督は大林監督プロデュースの『アイコ16歳』で監督デビューしている今関あきよし。出演者も『あの夏の日/とんでろじいちゃん』の厚木拓郎以下、大林組のメンバーがぞろぞろ顔を出している。ただし主演は三浦友和と谷啓。三浦友和は大林監督自身をモデルにしたと思われる映画監督・馬場鞠男を演じているが、その「馬場鞠男」が劇中に役者として登場している場面がある。役柄はもちろん映画監督……。

 物語の舞台はもちろん尾道。故郷に向かう汽車に乗った映画監督の馬場鞠男は、そこで謎めいたひとりの紳士に出会う。彼の怪しげな催眠術の手助けもあり、少しずつ少年時代の自分を思い出す鞠男。友達や家族との思い出、先生たち、広島に軍医として出征していた父と原爆投下、終戦、進駐軍、病弱な少女との交流、そして初めての映画作り。ひとつひとつの小さなエピソードに関連はないのですが、映画全体が回想形式になっているため、それはひとつも気にならない。登場人物が全員善人というのも、大林映画の常なのでまったく気にならない。

 もともとは一昨年1月にテレビ放送されたドラマで、その時の放送時間は74分(ドラマ本編は69分)。この劇場版ではそれより20分長い89分の作品になっています。僕はドラマ版を見ていないのでどのエピソードが加わったのかはわかりませんが、もともと放送後の劇場公開も視野に入れての映画製作だったので、両者を比較してどちらがより完全なバージョンなのかを検討しても意味がないかもしれない。テレビ版も劇場版も、どちらもオリジナルの『マヌケ先生』だと考えていい。ちなみにこの劇場版は一昨年のゆうばり映画祭に出品されており、作品の製作年は1998年になっている。本当は完成後すぐに劇場公開されるはずが、延び延びになって現在に至っていたようです。今回の上映も淀川長治展のおまけで、その後の一般上映も横浜西口名画座。映画の完成度のわりには、不遇な扱いを受けてます。まぁ公開されるだけましなんですけどね。

 尾道の町の現在と過去が交錯するあたりは、大林監督の前作『あの夏の日/とんでろじいちゃん』を連想させる。主人公を演じているのが同じ厚木拓郎だという共通点もあるが、ロケ場所も結構共通しているようです。映画のクライマックスで現在と過去が完全にオーバーラップするくだりや、病弱な少女のエピソードなどは、もろに『あの夏の日/とんでろじいちゃん』と重なり合います。この2作品は、一卵性双生児のようによく似ているのです。『あの夏の日』で泣いた僕は、この映画でもホロリと来てしまいました。オープニングは「199X年」で回想シーンも年代がはっきりと特定されている映画ですが、主演をあえて戦後生まれの三浦友和にするなどいろいろと細工をして、時代を少しボカしたのもうまい。


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