東京ゴミ女

2000/07/31 映画美学校試写室
ゴミをあさるから「ゴミ女」なのか、彼女自身がゴミなのか?
廣木隆一監督の異色ラブストーリー。by K. Hattori


 複数の映画監督がビデオを使って共通テーマの映画を連作するという、新企画《ラブシネマ》の第1弾作品。似たような企画としては、複数の監督が“エロス”というテーマでビデオ作品を連作した《MOVIE STORM》がある。《MOVIE STORM》は最初の2,3本こそテーマに沿った作品が並んでいたが、最後はテーマをおざなりにした監督の個人プレイが目立った。ビデオ映画はまだ過渡期の技術だと思うが、作り続けてこそノウハウも蓄積されるし技術もレベルアップする。《MOVIE STORM》はやや腰砕けだったが、《ラブシネマ》にはその分もがんばってほしい。1作目のこの作品がかなり面白かったので、後続の作品にもつい期待してしまうのだ。

 『東京ゴミ女』の主人公みゆきは、同じマンションに住む若い男ヨシノリに秘かに恋をしている。彼女は夜中になると、マンションのゴミ集積所から彼の出したゴミ袋を拾ってきて中身を点検する。ゴミの中から見つかる、恋する男の生活の痕跡。彼女はゴミを通して男の生活を監視している自分こそが、彼の最大の理解者であると自負している。ゴミあさりなんて汚いし、そんなのまるでストーカー行為なのだが、この映画では画面の色調や照明、室内のインテリア、主人公の服装、音響効果などを工夫して、ゴミあさりが汚らしい行為にも、後ろめたい行為にも見えないように工夫している。ゴミをあさる時にやたら大きくガサゴソ音がするのだが、その音が、ゴミの主体が紙やプラスチックなどの乾きもの系であることを想起させる。ゴミをきれいに分類整理する主人公の姿はうきうきと楽しそうで陰湿なところがないし、その手慣れた様子は熟練したプロフェッショナルのような、きびきびした機能美さえ感じられる。

 片思いの相手をじっと遠くから見つめているとか、秘かに追いかけ回すとかなら、まだ何となく様子がわかるのだが、それを「ゴミあさり」という突飛な行動と結びつけるところが恋愛映画としてはユニーク。(ゴミあさりそのものは映画『パパラッチ』にも登場しているので、まったく新しいアイデアというわけではない。)映画を観ている内に、ゴミという生活廃棄物を通してしか人とコミュニケーションできない主人公が、なんだかひどく愛おしい存在に思えてくる。ゴミの中にこんなにもメルヘンやファンタジーがあるとは知らなかった。この映画を観て「そうだ私もゴミを集めよう」と思う人は滅多にいないと思うが、「その気持ちはわかる!」と思う人はたくさんいると思う。僕はこの主人公の気持ちがわかります。どんなことであれ好きな人の秘密を知っているというのは、恋する人にとって心ときめく体験です。

 はたして主人公の彼への思いは通じるのか? 映画は終盤で「なんじゃそりゃ〜!」という展開になるのですが、それはここでは言わぬが花。試写室はその瞬間、少しどよめきました。みゆきを演じているのは中村麻美。ヨシノリ役は鈴木一真。監督は『不貞の季節』も近日公開の廣木隆一。廣木監督はなんだか絶好調だぞ。


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