しあわせ家族計画

2000/07/26 松竹試写室
TBSの人気番組「しあわせ家族計画」に出場する家族には、
テレビには映らないドラマがあったのだ。by K. Hattori


 阿部勉監督のデビュー作『しあわせ家族計画』は一昨年暮れに完成し、本来なら昨年2月に松竹系で公開されるはずだった作品だ。ところが松竹は邦画チェーンを解消してしまったため、この映画は完成しただけで公開のめどが立たず宙に浮いてしまった。今年の2月、阿部監督の郷里・仙台で全国に先駆けて劇場公開されたものの、その後の予定はなしのつぶて。それがいよいよこの9月に、東京でも劇場公開されることになった。映画は常に、大勢の客の前で公開されることを欲している。お蔵入りや即ビデオ化といった不幸が避けられただけでも、この映画にとっては幸せなことでした。ついでに松竹は行定勲監督の『OPEN HOUSE』も早いところ公開してくれ!

 タイトルからわかるとおり、この映画はTBSの人気番組「しあわせ家族計画」に出場する家族を描いたホームドラマ。一家のお父さんが番組からの宿題にチャレンジし、見事それを達成すると総額で300万円相当の商品が手にはいるという「しあわせ家族計画」は、番組それ自体がかなりドラマチックな内容になっている。番組のハイライトは「お父さんが宿題をクリアできるか否か」の一点にかかっているわけだが、映画でも物語のクライマックスは同じ。しかしそこで問われるのは、成功するか失敗するか、商品を手に入れられるか手に入れられないかという二者択一ではない。お父さんが宿題に挑んだ1週間で、それまでバラバラだった家族がひとつにまとまっていく。番組出場と宿題の披露は、家族がひとつになったことを確認する場だ。ここではもう、お父さんが宿題をうまくこなせるかが問われない。

 実在の人気テレビ番組をモチーフに、そこに出場する人々の姿を描いた作品としては『のど自慢』があった。家族のひとりが大きな課題をクリアすることを家族全員が応援することで、バラバラになりかけた家族がひとつにまとまっていく映画としては『お受験』があった。『しあわせ家族計画』の面白さは、『のど自慢』と『お受験』両方の面白さを兼ね備えていることにある。真面目だけが取り柄で長年勤めていた会社を突然リストラされ、恥を忍んで妻の実家に転がり込んだ一家4人。何をしても不器用なお父さんは、妻の実家の仕事を手伝うこともできない。彼に与えられた使命は、「しあわせ家族計画」で「埴生の宿」をピアノ演奏することだった。リストラされた会社の同僚に小林稔侍がいたりするので、この映画には『学校3』もちょっと入ってます。クビを言い渡す人事部長やTBSガードマンの顔には、『釣りバカ日誌』のイメージもダブってくる。いかにも松竹。

 新人監督のデビュー作だから演出にぬるいところがあるのは仕方ないのですが、脚本レベルで疑問に思う点が多すぎてちょっと興ざめしてしまう。例えば映画に途中入場して途中退場する阿部寛は、いったいどうなったのか。主人公の再就職はどうなるのか。長女の不登校問題は解決するのか。長男の野球部入部はどうなる。家族が団結することと、これらの問題はまったく別問題だぞ。


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