キャスティング・ディレクター

2000/07/25 松竹試写室
豪華キャストで描かれるハリウッド映画業界人たちの日常。
会話ばかりでドラマの芯が見えない。by K. Hattori


 劇作家デビッド・レイブの戯曲「HurlyBurly」をレイブが自ら映画用に脚色し、これが監督3作目となるアンソニー・ドラザンが監督した作品。原作の舞台にも出演したショーン・ペンとケビン・スペイシーが、舞台で演じたのと同じ役で主演。メグ・ライアン、ロビン・ライト・ペン、チャズ・パルミンテリ、アンナ・パキンなど、映画でお馴染みの役者が脇を固める豪華キャストの作品だ。しかしこれ、僕はあまり面白いと思わなかった。いかにも舞台劇をそのまま映画化しました、という匂いがプンプンして、まるっきり映画らしさを感じないのだ。長台詞が飛び交う室内シーンがやたら多いし、ペン演じる主人公エディとスペイシー演じるミッキー以外の人物は、物語の中に途中参加して途中退場してしまう。室内シーンでの人物の出し入れも、ドアホンを押して人物が室内に入り、「帰るぞ」と宣言して退場するというものが多い。映画ならこんな出入りは省略すればいいのに、あえて残してあるのは舞台劇のクセでしょうか。舞台劇の匂いを残すなら残すで徹底すればいいのに、カメラがふいに外に出たりして統一感がない。これはまるっきりコンセプト不明瞭。いったい何がやりたいのか?

 物語の舞台はハリウッド。邦題からも想像できるように、これはハリウッド映画業界の裏側を描いた作品だ。主人公エディは華やかな映画業界でキャスティング・ディレクターとして働くバツイチ男。その豪邸に居候中の友人ミッキーも今は妻子と別居中。ふたりは同じ事務所の共同経営者だ。エディは業界で働くゴージャスな美女ダーレーンに好意を持っているが、それを知りつつミッキーが彼女と寝たことに腹を立てている。恋愛に淡泊で友情と仕事を優先するミッキーは、ダーレーンからあっさり身を引いて涼しい顔。エディの友人でトラブルメーカーのフィルは売れない役者。いつも情緒不安定で怒鳴り散らしている。やはり業界人のアーチーは、エディとミッキーへの手みやげにヒッチハイクで旅行中の少女ドナを拾ってくる。エディとフィルはドナと3P……。

 ドラマの中心になっているのはエディの家。そこに入れ替わり立ち替わり人が訪れ、次から次に大小の事件が起きる。登場人物の多くは映画業界人だが、そこで映画業界ならではの何かが起きるわけではない。そもそもこの映画には、彼らが働いている場面はほとんど登場しない。彼らはいつだってドラッグと酒で酩酊し、男同士で馬鹿話をし、女が来ればセックスし、携帯電話で怒鳴り合い、失敗した結婚や恋愛問題にクヨクヨと悩んでいる。この作品はたまたまハリウッドを舞台にしているが、派手でお金と暇がふんだんにあって、モラルが欠如した業界ならどこでも成立する話です。日本なら人気テレビ番組製作の裏側や、バブル時代の広告代理店などを舞台にして同じ話が作れるでしょう。その人本来の実力や人柄以上に権力や金や力を持ってしまった人たちが、自分自身を見失ってうろたえる話です。同じような人たちは、おそらくどこにでもいるんでしょうけどね。

(原題:HurlyBurly)


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