押切
OSHIKIRI

2000/07/21 シネカノン試写室
主役に魅力なし、話に面白味なし、製作予算なしの三重苦。
原作は『富江』『うずまき』の伊藤潤二。by K. Hattori


 『富江』『富江 replay』『うずまき』など、作品が次々と映画化されている人気漫画家・伊藤潤二。この『押切』も伊藤作品の映画化だ。主人公の押切トオルは、ちょっとニヒルでハンサムな高校生。だが彼の生い立ちには、ある重大な秘密があった……。映画の中身はオカルトチックな連続猟奇殺人事件を扱ったホラー映画(なのかな?)。物語のベースになっているのは、パラレルワールドというSF風のアイデア。次元を隔てる壁に開いた穴を通して、主人公たちがふたつの世界を行ったり来たりする。パラレルワールドはきわめて似通った世界だが、重要なところが少しずつ違う。例えば、主人公・押切トオルの性格などがまったく違う。

 話のアイデアはともかくとして、あまり魅力の感じられない映画です。最大の欠点は、主人公の押切トオルを演じている徳山秀典にまったく魅力がないこと。話がどんなにつまらなかろうが、演出がどんなにヘボだろうが、主役に魅力さえあれば映画なんてそれなりにまとまるものです。徳山秀典という俳優は『クロスファイア』にも出ていたというのでプレスを調べたら、『クロスファイア』では不良少年グループのリーダー役を演じていました。『クロスファイア』で印象に残る若い俳優は、ヒロインの恋人を演じた伊藤英明と、ヒロインと似た超能力を持つ男を演じた吉沢悠、それに刑事役の原田龍二ぐらいだった。徳山秀典のことは、すっかり失念してました。資料を見て初めて「そういえばこんな人がいたな」と思い出した程度。でも僕の中では、『クロスファイア』と『押切』の徳山秀典がまったく重なり合わない。特に『押切』は観たばかりの映画なのに、印象がきわめて希薄だ。もっと主役の魅力を引き立てる方法はないのか?

 ヒロインを演じている初音絵莉子は、同じ伊藤潤二原作の映画『うずまき』でもヒロインを演じていた若い女優。ベタベタした口調で、印象としてはボンヤリしたこの女優が、伊藤潤二作品のテイストということなんでしょうか? なぜこんな人物配置になるのか、僕にはさっぱりわからない。主人公の押切はニヒルな二枚目で、どちらかというと無口で周囲から孤立しているタイプ。だったら彼とくっつけるヒロインは、陽性でハキハキしたタイプにするのが常套手段なのではなかろうか。脇役の魅力で、主人公が引き立つということもある。この映画では主人公の印象が少し曖昧なので、そのボンヤリとした輪郭をシャープに切り取る役目が、脇役に課せられるべきなんだ。でも相手役がこんなナマクラじゃなぁ……、というのが僕の正直な印象です。

 人気漫画家の原作を映像化した作品なのだから、その漫画家のファンは、映画を観てまた別の感想を持つかもしれない。原作の読者からすれば「よくぞこの場面を映像化してくれた!」と唸る場面があるのかもしれないけど、僕にはそうしたことがさっぱりわからなかった。映画を観た後、原作を読んでみようとすら思わない。これはやっぱり、完成した映画に魅力がないからでしょう。


ホームページ
ホームページへ