ジョン・マルコヴィッチの穴

2000/06/29 松竹試写室
古いオフィスビルで発見された有名俳優の頭の中に通じる穴。
キャメロン・ディアスが生活感あふれる役を好演。by K. Hattori


 今年のアカデミー賞で助演女優賞・監督賞・脚本賞の3部門にノミネートされた、異色のファンタジック・コメディ。ニューヨークのど真ん中にあるビルの、7と1/2階で発見された小さな穴。そこはなんと、俳優ジョン・マルコヴィッチの頭の中に通じていた。人形師として一流の腕を持ちながら仕事にあぶれ、たまたまこのビルの中の会社で働きはじめた主人公クレイグ・シュワルツは、仕事の最中に偶然この穴を発見。同じビルで働く美女マキシンと共に、「200ドル払えば誰でも15分だけジョン・マルコヴィッチになれます」という商売をはじめる。マキシンにぞっこんのクレイグは何でも彼女の言いなり。しかし穴を通って15分間のマルコヴィッチ体験をしたクレイグの妻ロッテが、自分の中に眠っていた「男性」を自覚してしまったことから、ただでさえややこしい話がますますややこしくなる。何とロッテはマキシンに一目惚れ。マキシンもマルコヴィッチの中にいるロッテとの倒錯した恋愛に夢中になり、ジョン・マルコヴィッチ本人を置いてけぼりにして、クレイグ、マキシン、ロッテの三角関係がもつれていく。

 監督のMV出身のスパイク・ジョーンズで、これが長編映画初監督作品。彼はCMの監督でもあり、写真家でもあり、『スリー・キングス』などに出演した俳優でもあり、ソフィア・コッポラの夫でもある才人。(ソフィアも女優、モデル、写真家、映画監督などの肩書きを持つマルチタレントだから、このカップルはよく似ているのです。)今回ユニークな脚本を書いたのは、やはりこれが劇場用映画脚本デビューとなったチャーリー・カウフマン。おなじアイデアから、コテコテのギャグを全面に押し出したコメディ映画を作ることもできるだろうが、本作はあえてそうはせず、人間の変身願望や隠されていた自意識やセクシャリティの芽生え、個人とアイデンティティの関係、不老不死への憧れといった、シリアスなテーマと結びつけていく。夫婦が同じ女性を好きになってしまい、みるみるうちに夫婦関係が崩壊していくなんて、まるで悲劇ではないか。でもその悲劇が、“ジョン・マルコヴィッチになれる穴”という荒唐無稽な設定によって中和され、生々しさを緩和されている。

 相当にふざけた、人を食った映画です。基本的にはコメディ。だけどそのギャグがいちいち、映画を観る人の心を突き刺してくる。ものすごく真剣な場面が、そのままギャグに転化するおかしさ。ロッテがチンパンジーとキスする場面や、そのチンパンジーが胸の中に秘めていたトラウマが明らかにされるシーンなど、たぶん僕はこれから一生忘れられないと思う。ジョン・マルコヴィッチ本人が自分の頭の中をのぞくという場面は、「とにかく画面のどこかにジョンが出ていればそれで幸せ!」というファンにとっては至福の時となるでしょう。クレイグ役のジョン・キューザック、マキシン役のキャスリーン・キーナーも素敵だったが、やはり僕としてはロッテ役のキャメロン・ディアスがすごいと思いました。

(原題:BEING JOHN MALKOVICH)


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