ピンク・ピンク・ライン

2000/06/29 メディアボックス試写室
無実の死刑囚を救う、ドキュメンタリー映画捏造大作戦。
アイデアはともかく個々のギャグが寒い。by K. Hattori


 ドキュメンタリー映画の未来を担う天才監督で、今やハリウッドはおろかアメリカ中から注目されている(と本人は思っているらしい)ロイス・キャノンは、新たなドキュメンタリー取材の対象として「無実の罪で処刑室に向かう死刑囚」というドラマチックな素材を選択した。自ら犯していない罪で長年に渡って刑務所に押し込められ、生きる希望さえ見失いかけている死刑囚を助け出すべく、新進気鋭のドキュメンタリー監督が徹底した取材で真実を暴き出すのだ。そうと決まれば話は早い。ロイスは気心の知れたスタッフ3人に声をかけて少数精鋭の撮影クルーを仕立て、意気揚々と死刑囚監房のある刑務所に向かうのだが……。ドキュメンタリー映画を撮ろうとしたスタッフたちがとんでもない事態に巻き込まれていくというアイデアが、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』と何ら変わらないコメディ映画。この映画では、ドキュメンタリー映画監督のロイス・キャノンを、別のドキュメンタリー取材班が撮影しているという趣向。ただしこの「外部の視点」は、必ずしもすべての場面で徹底されていない。それがちょっと残念だ。

 アメリカではドキュメンタリー映画が新人監督の登竜門になっていることもあり、毎年膨大な数のドキュメンタリー映画が作られている。アカデミー賞にもドキュメンタリー部門がちゃんとあるし、この映画のように「ドキュメンタリー仕立てのフィクション」なるジャンルが成立する余地もある。ただし今回の『ピンク・ピンク・ライン』は、あまり映画のデキがよろしくないのが残念。序盤の滑り出しはそんなに悪くなかったのだが、中盤で少しだらけてくるし、終盤のクライマックスや最後のオチも今ひとつ意味がよくわからなかった。まがりなりにも「映画を作る映画」という映画ファン受けする作品なのに、ここには映画ファンが喜ぶような要素があまりない。もちろんジェイソン・プリーストリーやジェニファー・アニストン、マイク・マイヤーズ、ジャニーン・ガラファロといった有名スターが出演しているのは見どころだ。でも面白いのがそれだけというのもねぇ。

 これは映画製作の舞台裏を追いかけた「映画を作る映画」であり、処刑を目前に控えた死刑囚が獄中から無罪を訴える「刑務所映画」であり、主要人物がダンスの振付師という「ミュージカル」であり、ある人物のセクシャリティを追求した「ゲイ・ムービー」であり、それらすべてがフェイクだというコメディ映画。これだけたくさんの要素が盛り込まれているのだから、それぞれのジャンルにありがちな定番描写をそっくり引用してアレンジするだけで、抱腹絶倒のギャグが次々に作れそうなもの。なのにこの映画、なぜこんなにギャグが寒いんだ? このレベルのギャグしか考えられないのなら、ギャグの数をこの3倍から5倍の密度にしてほしい。そうすれば下らないオヤジギャグも繰り返されるうちに笑いモードに突入するように、中盤以降は少しずつ笑いも起きただろう。でもこれじゃ笑えない。ギャグが薄すぎます。

(原題:THE THIN PINK LINE)


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