海のオーロラ

2000/06/06 メディアボックス試写室
深海基地が採掘したバクテリアが人類存亡の危機を招く。
全編3DCGだがいささか時代遅れ。by K. Hattori


 日本テレビが3年近い歳月をかけて作った、1時間半の長編CGアニメーション映画。天然資源が枯渇しかかった近未来の地球。人類は地下資源の宝庫として深海に目を向け始めていた。主人公・息吹ヒロシは、深海の地下資源採掘プラントで働く若い技術者だ。南鳥島沖の深海基地では、岩盤を掘り進んでマントル上部のサンプルを採取するプロジェクトが大詰めを迎えようとしていた。だがその海底基地に、ひとりの女性テロリストが侵入する。その名は王春露(ワン・チュンル)。彼女が言うには、このプロジェクトは深刻な地球環境破壊を引き起こし、人類を滅亡させてしまう危険を持っているという。

 太古の地球で大気中の二酸化炭素を分解したバクテリアが深海の岩盤深くに眠っており、それが一気に地上に出れば、大気の組成バランスが崩れて地球環境は激変してしまう。だが彼女の到着したとき、既にバクテリアは海中に流出していた。「オーロラ」と呼ばれるその古代バクテリアは潜水艇に付着して地表に出ると、空気と反応して大爆発を引き起こす。しかもバクテリアは少しずつ基地外壁を腐蝕させ、ヒロシや春露ごと基地は圧壊の危機にさらされる。基地から脱出してもひとたび海面上に出ればバクテリアによって大爆発が起き、基地に留まり続けることもできない。まさに絶体絶命だ。

 CGアニメーション映画と言えば、最近は『トイ・ストーリー』や『バグズ・ライフ』『トイ・ストーリー2』などのピクサー作品がすぐに連想される。そうした作品に比べると、『海のオーロラ』のCG映像はいかにも安っぽくて一世代も二世代も前の映像という雰囲気。世の中は『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』の時代になっているのに、「これがCGだぜ!」と自慢げに『スター・ファイター』を見せられたような気分だ。CGで人間を動かすのが難しいのはわかるが、この映画の人物表現は人形劇「ひょっこりひょうたん島」にも劣る。そもそもこのキャラクターデザインは何だろう。人物のプロポーションの中で、手ばかりがやけに大きくてグロテスクだ。腕がぶくぶくと太くて、その先がいきなり指になるというのも……。こうした手のボリュームアップに、何か表現上の意図があるなら僕はそれを否定しない。例えばCGキャラクターの表情の乏しさを補うために、手や指先に細かな芝居をさせるという考え方だってあるだろう。でもこの映画の中では、そうした意図はまるでなし。ただただ手がデカイのです。

 生物をモチーフにしたというメカデザインも悪趣味。巨大な目玉に耳がくっついた原子炉「ヒトミちゃん」のデザインも、まるで新興宗教の祭壇で勘弁してくれって感じ。とにかく全体にひどくセンスが悪い。お話に登場する太古のバクテリアというアイデアは面白いのに、春露を巡る人間関係は陳腐で涙が出るほど古くさい。クライマックスからエンディングにかけての展開など、どこかの映画から丸ごと持ってきたかのような安直さ。テレビ局が自前で作ったという意義しかない映画です。


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