千里眼

2000/05/31 東映第1試写室
松岡圭祐の小説「千里眼」を原作者本人が映画用に脚色。
原作もこんなにバカな話なんですか? by K. Hattori


 昨年東宝で公開されたサイコホラー映画『催眠』と同じ世界を共有する映画で、原作も同じ松岡圭祐。この映画、撮影開始直後に監督が交代したりして最初からバタバタしていたのですが、映画の中身もかなりバタバタしています。原作者が脚本にもクレジットされているのですが、原作もこんな話なんでしょうか? 正直言って、お話も演出も相当にお粗末な映画です。『催眠』もかなり奇妙奇天烈な映画だったけれど、少なくとも「観客を恐がらせる」という点については水準をクリアしていたと思う。でも『千里眼』は恐くないし、サスペンスも盛り上がらないし、アクションシーンもそこだけ浮いているし、人間ドラマとしても葛藤が希薄だし、話に脈絡もない。要するにまったく面白いと思えなかった。今年のワースト映画は『ピンチランナー』だと心が決まっていたのですが、あれはまだ「タレントのファンに観せる映画」という狙いがはっきりしている。でも『千里眼』はいったい何なの? いくら何でもこりゃひどいよ。

 「ミドリの猿」と名乗るテロ集団によって、日本各地で大規模なテロ事件が続発する。中でも日本中に衝撃を与えたのは、米軍横須賀基地に入り込んだ男がミサイル発射装置を操作し、日本各地に弾道ミサイルをぶち込んだ事件。興奮して手が着けられない犯人を説得するため基地に呼ばれた友里佐知子は、「千里眼」の異名を持つ心理カウンセラー。彼女は犯人の自殺をくい止められなかったが、カメラに記録された犯人の些細な表情の変化からミサイル発射装置の暗証番号を解読する。現場で一部始終を目撃していた航空自衛官の岬美由紀は、「ミドリの猿」の事件を独自に調査し始めるのだが……。

 そもそも脚本がデタラメなのは明らかだが、原作者が脚色もしているのだから、たぶん原作者に最大の原因があるのだろう。(監督の交代も、監督と原作者の意見対立が原因だと報道されていた。)在日米軍が日本各地にミサイルを撃ち込んでもまったく政治問題化していないというのがそもそも奇妙だし、同盟関係を無視して米軍側が「君たちは部外者だ」と自衛官を基地からオミットしようとするのもおかしい。主人公が自衛官でなければならない理由はまったくないし、むしろ自衛官にしてしまったことで行動に制約が出ている面も大きい。人物の性格付け、バックグラウンド、人物同士の関係や配置、事件によって生じる葛藤などがまったく曖昧模糊としている。話自体はものすごく単純なのに、なんでこんなにワカランチンな語り口になってしまうんだ?

 『催眠』のクライマックスがモンスター映画になったのにも驚いたけれど、『千里眼』のクライマックスがカンフー映画になったのにはそれ以上に驚いた。たぶん『マトリックス』が念頭にあるのでしょうが、この香港流アクションが、映画の雰囲気と合っているかどうかははなはだ疑問だぞ。馬鹿馬鹿しくて観てられない場面が多すぎる。ツッコミどころがあまりにも多すぎると、ツッコム気力さえなくなってしまう。あ〜、しんどい。


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