オルフェ

2000/05/24 映画美学校試写室
ギリシャ神話に材を取った『黒いオルフェ』を再映画化。
クライマックスのカーニバルは大迫力。by K. Hattori


 ギリシャ神話のオルペウスとエウリュディケの物語を現代のリオデジャネイロを舞台に翻案したヴィニシウス・ヂ・モライスの戯曲は、'56年に舞台が初演され、3年後には『黒いオルフェ』というフランス映画にもなってカンヌ映画祭のパルムドールとアカデミー外国語映画賞を受賞している。今回の映画『オルフェ』はモライスの戯曲を新たに現代の物語へと翻案した2度目の映画化。といっても『黒いオルフェ』のリメイクではなく、ブラジル人の詩人が書いた戯曲を、ブラジル人の監督が映画化したまったく新しい作品ということらしい。僕自身は『黒いオルフェ』を観ていないので、もともと比較自体が不可能なんですけどね。今回の映画の中には『黒いオルフェ』に使われて世界的なヒット曲となった「フェリシダーヂ」「カーニヴァルの朝」といったブラジルのスタンダードナンバーが巧みに織り込まれて、作り手の過去の作品に対する敬意を表しています。

 物語の舞台はリオの市街地から少し離れたスラム地区カリオカ。丘の斜面にバラックのような小さな家がびっしりとへばりつき、その中は警察の手の届かない治外法権のようになっている。警察が踏み込んでも、犯罪者たちは迷路のような路地を巧みに抜けて逃げおおせてしまう。そんなカリオカ地区を支配するのは、ルシーニョという若いギャング。警察は躍起になって彼の行方を追っている。犯罪の巣窟カリオカだが、不思議なことにこの地区のカーニバル・チームはコンテストでここ2年連続優勝している。その立て役者が、カリオカが生んだ天才音楽家オルフェ。現代ブラジルを代表するシンガー・ソング・ライターとして成功した彼だが、生まれ育ったカリオカを決して離れようとはしなかった。カーニバルを数日後に控えたある日、カリオカにいる叔母を頼ってユリディスという少女がやってくる。

 夜空に巨大な月が浮かび、そこをジェット機が横切っていくという印象的なオープニング。やがて夜明けが近づくと、主人公オルフェが朝日に向かってギターをかき鳴らす。この導入部は非常にロマンチックで、これから始まる物語の美しさを連想させます。ただ、スラムに警官隊が乗り込んでくるあたりから雲行きがおかしくなってくる。ルシーニョや警察が象徴するむき出しの暴力と、オルフェが奏でる美しい音楽の世界がいまひとつしっくりと結びつかず、まるで異なるふたつの映画を無理矢理ひとつにまとめたような感じです。この映画では、相対するふたつの世界の接点があまりうまく描けていないのかもしれない。オルフェの目指す平和な世界と、警察とギャングたちの暴力の世界。オルフェが求める純粋な愛の世界と、周囲の女たちがオルフェの中に見出そうとする幻想の愛。都会派のオルフェと、田舎育ちのユリディスの価値観の違い。すべてがバラバラです。

 クライマックスはリオのカーニバル。カメラがカーニバルの隊列の中にどんどん入り込んでいく様子は迫力があります。ブラジルでは興行的に大成功したのも納得。

(原題:Orfeu)


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