サルサ

2000/05/19 メディアボックス試写室
サルサに魅了されたフランス人青年がキューバ人に化ける。
ラテンのリズムでノリノリの音楽映画。by K. Hattori


 クラシック音楽の世界で将来を嘱望されていたフランス人青年レミは、サルサの魅力に取り憑かれて音楽学校を飛び出す。プロの演奏家としてバンドに加わろうとするが、仲間のキューバ人は「白人の客はキューバ人の演奏する本物のサルサが聴きたいのさ。フランス人のピアニストなど誰も雇わない」と大笑い。それならとレミは顔を黒く塗り、キューバからの出稼ぎミュージシャン“モンゴ”と名乗ってフランス人にキューバ音楽とダンスを教える教室を開く。そこに婚約者と一緒にやってきたのは、旅行代理店に勤めながらも一度も外国に行ったことがないというナタリー。祖母の薦めでおっかなびっくりサルサを習い始めた彼女だが、モンゴ先生(=レミ)に連れて行かれたサルサ・クラブで彼女の中に眠っていたラテンの血に火がついた。猛然と踊り始めた彼女の様子に、婚約者もモンゴもびっくり。じつはナタリーの祖母にラテン・ダンスの素養があり、彼女は幼い頃からその手ほどきを受けていたのだという……。

 白人男が顔を黒く塗ってキューバ人に成りすますという設定は、白人の学生が奨学金目当てに黒人に成りすます『ミスター・ソウルマン』という映画を真似たものかもしれない。『ミスター・ソウルマン』の主人公は金持ちの青年だったが、『サルサ』の主人公はクラシック音楽のピアニスト。どちらも世間では高級で上流のものだと思われている世界から、どちらかというと低級で末流のものだと思われている世界に自ら飛び込んでいく。『ミスター・ソウルマン』はタイトル通り、音楽にソウルミュージックを使い、『サルサ』はキューバ音楽の世界を舞台にしている。じつは僕、『ミスター・ソウルマン』は観ていないのでこんな共通点しかわかりませんが、実際に比較すればもっと似ている点があるのかも。

 主人公が恋人にいつ自分の正体を明かそうか悩んだり、ヒロインが高級官僚の婚約者を捨てて主人公になびき、地味で化粧気のない女の子から情熱的なラテンの女に変身していくあたりはパターン通りの展開。びっくりするのはヒロインの体内に流れる「ラテンの血」を説明するくだりで、こんな因縁話にはインド映画もびっくりだ。やることがいちいち古くさい。古くさいと言えば、主人公がベッドのきしみや歯ぎしり、いびきの音をヒントに音楽を作ってしまう場面にも驚くと同時に喜んでしまった。こんな場面は『ザッツ・エンターテインメント』に収録されている大昔のミュージカル映画で観たきりだ。今どきこんな作曲シーンを作るなんて!

 話に新鮮味はないけれど、この映画は音楽がいいし、ダンスシーンもいい。主人公も格好いいし、ヒロインもかわいい。脇の人物まで含めて面白い連中ばかりが登場して、エピソードも粒より。こんな楽しい映画に、斬新なストーリーなんて必要ないよ。とにかく観ている間中、楽しければそれでいい。主演のヴァンサン・ルクールやクリスティアンヌ・グゥより、老ミュージシャンを演じたエステバン・ソクラテス・コバス・プエンテに味あり。

(原題:SALSA)


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