ルール

2000/05/18 東宝東和試写室
有名な都市伝説をまねた連続殺人事件の犯人は誰だ?
ミステリー要素が薄くてあまり恐くない。by K. Hattori


 こんな話を聞いたことはないだろうか? 新婚旅行先でブティックの試着室に入った妻がなかなか出てこないことを心配した夫が中を覗いてみたところ、薬品で昏睡状態にされた妻が隠し扉から連れ去られそうになっているところだったという話。これは「オルレアンの噂」と呼ばれる有名な都市伝説だが、知り合いの日本人が実際に遭遇した事件として日本でも広く語り伝えられている。あるいは数年前に新聞ネタにもなったこんな噂話はどうだろう。犬の散歩に出た主婦が戻ってこなくなり、しばらくして犬だけが家に戻ってきた。心配した夫が探しに行くと、妻は外国人にレイプされて自殺していた。この噂話は近隣住人のほとんどが実話と信じ込み、警察には「犯人は捕まったのか?」という問い合わせが多数寄せられたというが、実際にはそんな事件は1件も起きていなかったという。PL法が導入される際は、日本の新聞にも犬を電子レンジで乾かそうとした老婆の話が実話として紹介されていた。これらはすべて「都市伝説(urban legend / urban folklore)」と呼ばれる民間伝承で、最近では民俗学者たちにとっての大きな研究テーマになっている。電子レンジの犬の話も含め、ほとんどは事実無根の噂話にすぎない。

 映画『ルール』はそうした都市伝説をテーマとしたホラー・サスペンス映画。この映画では「都市伝説のほとんどは実体のない噂話に過ぎない」という現代民族学の実証的な研究成果を踏まえた上で、伝説に実体を与える殺人者というキャラクターを作り出した。アイデアは面白いけれど、この映画は結局そこまでのもの。都市伝説を模倣した連続殺人というアイデアをふくらませて、新しい殺人鬼を作り出すところまでは至っていない。連続殺人を扱うホラー映画では、被害者たちがどのように殺されるかという「殺人ショー」が大きな見どころだから、作り手もそこにさまざまなアイデアを出す。しかしこの映画に登場するのは「有名な都市伝説の模倣犯」なので、犯人が新機軸の殺人芸を披露する余地がないのです。だったら殺し方以外のところで新しい試みをしなければならないはずなのに、この映画にはそれもない。

 「どうやって殺すか」に新しさがないのなら、「なぜ殺すのか?」「動機は何か?」「犯人は誰なのか?」というミステリー要素を強くして、疑心暗鬼のスリルやアリバイを解く知的興奮を感じさせてほしい。そうすれば「都市伝説をモチーフにした異色のミステリー」という評価は得られただろうに。観客が疑惑の目で見るようなキャラクターは何人か登場しますが、それがいちいち生きてこないのが残念。25年前に起きた惨殺事件という伏線が、あまり生かされていないのも気になる。

 監督のジャミー・ブランクスはジョン・カーペンターに私淑する26歳の新人。まだ演出経験が浅くて、図々しさが足りないのかも。ヒロインが窓越しに殺人事件を目撃する場面なんて、『サスペリア2』をそのまま引用すればいいのにそうしていないしね……。

(原題:URBAN LEGEND)


ホームページ
ホームページへ