素肌の涙

2000/05/12 徳間ホール
俳優ティム・ロスの映画監督デビュー作は近親相姦がテーマ。
ヒロインを演じたララ・ベルモントが可愛い。by K. Hattori


 人気俳優ティム・ロスの映画監督デビュー作。映画の冒頭には、薄暗く荒涼とした海岸線が映し出される。画面の下半分を海岸の黒い砂が占め、上の方には黒い覆いのようなものがかぶさって、シネスコの横長画面をさらに横長に切り取っている。次のカットは海岸沿いの一本道。そこを自転車に乗って猛スピードで走っていく少年。道の側にはえている木は、海からの風のためか奇妙な形にねじくれている。物語はまだ少しも始まっていないが、この冒頭の場面を観ただけでゾクゾクしてくる。

 物語の舞台はイングランド南西部のデボン。父の仕事の都合でこの海岸地帯に引っ越してきた一家に、新しく女の赤ちゃんが産まれる。新しい家族の誕生を喜び合う家族たちだが、間もなくこの一家はある秘密のために崩壊してしまう。15歳のトムが最初にそれに感づいたのは、バスルームにいた父と姉の姿を見たときだった。彼はそれを見たとき、とっさに目を逸らす。そこには彼が見てはならないものがあったのだ。姉のジェシーは18歳。彼女にその件を問いただしても、「パパの後に続けてお風呂に入っただけ」と相手にしない。だが父と姉との間にそれ以上のものがあることを感じたトムは、何が何でもその真相を突き止めようと躍起になる。やがて彼は、父と姉が近親相姦関係にあることを突き止める。

 近親相姦を扱った映画はいろいろあるけれど、この映画がショッキングなのは、弟の目を通して父親と姉の秘密を暴いていくという心理ゲーム的な要素を持ち込んだこと。小さな疑惑を発端にして証拠集めを始めた彼は、姉と父の関係を裏付ける決定的な証拠を次々に発見する。だが姉はそれらをすべて否定するのだ。じつは弟自身も、自分の家族の中に近親相姦などというおぞましい関係があることを認めたくない。姉の言葉通りであれば、彼はどれほど救われるだろうか。彼は姉も父も大好きなのだ。だから彼は真相を突き止めなくてはならない。姉の言葉は事実なのか、それとも自分の抱いている疑惑こそが正しいのか……。彼は目の前にある事実から目を背けることができない。適当に目をつぶってやり過ごすことができない。思春期の少年が持つ性に対する好奇心と、性に対する潔癖な気持ちが、姉と父の関係を追求していこうとする彼の心の中で激しくぶつかり合う。

 映画の中でもっともショッキングなのは、海岸にある小屋の中で父親と娘が禁断の行為にふける場面でしょう。父親を演じているのは『ニル・バイ・マウス』『フェイス』の名優レイ・ウィンストン。娘ジェシーを演じているララ・ベルモントは、これが映画デビュー作という新人です。ウィンストンの巨大な体が少女の身体にのしかかり、その体を犯す様子をカメラはじっくりと撮っている。そこまで描かれていた理想的な父親像が、一気に崩壊するおぞましい場面です。

 荒涼とした海岸の風景と一軒家の描写が、この家族の孤立感を強調し、小さくて密接な人間関係の中で犯されるタブーを深くえぐり取っていきます。

(原題:THE WAR ZONE)


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