クローサー・ユー・ゲット

2000/04/28 FOX試写室
遠くにいる理想の美女より、身近にいるいい女を手に入れろ。
アイルランドを舞台にしたラブ・コメディ。by K. Hattori


 『トレインスポッティング』『ブラス!』『フル・モンティ』などが立て続けにヒットして以来、すっかり日本の映画興行界で幅を利かせているのが「イギリスもの」だ。もっとも重宝がられているのは小品ばかり。昔はイギリス映画と言えばデビット・リーンの『アラビアのロレンス』であり、ヒュー・ハドソンの『炎のランナー』だったんですけど、最近はどれもこれも小粒な映画ばかりになりました。しかも舞台はスコットランドやアイルランドといった田舎ばかり。時代の趨勢ですかね。そのくせジョン・ブアマンの『ザ・ジェネラル』のような映画は輸入されないんだよね。ある程度の大作を輸入するより、コケてもともとの小品を輸入して、アタレば儲けものという魂胆がみえみえ。まぁそれはそれで構いませんけどね。ある程度の数が輸入されれば、中には面白いものも混ざってるから。『クローサー・ユー・ゲット』は例によって小品で、例によってアイルランドが舞台で、例によって無名キャストの地味な映画。でも中身はそこそこ面白くて、そこそこ感動的。

 物語の舞台になっているのは、アイルランドの田舎町。町と言うより「村」と呼んだ方がいいような、小さな小さな共同体です。田舎町の例に漏れず、この土地も慢性的な嫁不足。女の子はみんな都会に出てしまい、残っているのはいい年をした男たちばかり。「いい女はみんな町に行っちまった。残ってるのはブスばかりだ」と酒場で意気投合した男たちは、新聞に花嫁募集広告を出すことにする。地元のローカル紙? いやいや、夢は大きく持て。目指すはアメリカのセクシーギャル(死語?)だ。プレイボーイのグラビアにムラムラと何事かを感じた男たちはアメリカの新聞に広告を出し、精一杯めかし込んでギャルたちの到着を待つのだが……。

 主人公たちがアメリカ娘に狙いを定めるきっかけになったのが、教会の映画会で『十戒』と間違えてかけられた『テン』だというのが笑わせる。たとえ『テン』を観ていなかったとしても、このくだりは映画ファンなら大笑いでしょう。ビーチで水着の美女がたわむれるシーンを観て「これが紅海だ」と男たちがはしゃぎ、スクリーンの前に立ちふさがった中年女性の服に金髪水着美女のランニング姿が映写されると「奇跡が起きた」とはやし立てる。映写を中止させた若い神父が、その晩ひとりで『テン』を観ているというのも愉快でした。

 この神父がじつにいい。主役の男は別にいるし、ラブコメの中で神父はひとり蚊帳の外。でもこの神父がいることで、この映画はずいぶんと得をしています。この神父は熱心で真面目な人なのですが、ひとりでこっそり『テン』を観るし、教会の鐘を録音テープに替えて「これがバチカンの鐘です!」と喜んだりする。男たちが花嫁募集広告を出したと知ると、女性を服に例えて男たちに注意する場面も面白い。服の話は後々の伏線になっていて、彼が恋に悩む男に「仕立屋を信じなさい」と言うところは感動的だった。神父ならではの台詞です。

(原題:The Closer You Get)


ホームページ
ホームページへ