ゴッド and モンスター

2000/04/26 GAGA試写室
映画監督ジェイムズ・ホエールの晩年を描いたドラマ。
これが劇場公開されるといいんだけど。by K. Hattori


 イアン・マッケラン演じるこの映画の主人公は、『フランケンシュタイン』やその続編『フランケンシュタインの花嫁』などの作品で知られる実在の映画監督ジェームズ・ホエール。この映画は彼の私生活や創作の秘密、謎めいた死までを描いているが、必ずしもすべてが事実をもとにしているとは限らない。

 この映画に描かれているのは、結局のところ「山嵐のジレンマ」のような人間心理のアヤなのかもしれない。人間は社会的な動物だから、ひとりで生きていくことはできない。誰にでも友人は必要だ。だがこの映画の主人公ジミー・ホエールは人並みはずれた自尊心が邪魔して、人間社会の中で他人と折り合いを付けていくことができないのだ。自分に近づいてくる者をうっとうしく思い、去っていく者を追うこともプライドが許さない。彼のそんな性格は、彼のもとにファンの学生が訪ねてくるという冒頭のエピソードで端的に描かれている。朝から来客を楽しみにしているのに、いざ客が現れると「すっかり忘れていたよ」と言わずにいられないホエール。「あなたの大ファンなんです!」と自己紹介した学生に向けて、ウンザリした目を向ける彼の顔を見よ。彼はこの客が嬉しいのだ。だが同時に、耐え難いほどうっとうしいのだ。

 主人公の自負心と気取った性格を表すもうひとつの描写は、親しくなった庭師から「明日の晩あなたの映画をテレビで放送しますよ。『フランケンシュタインの花嫁』です」と言われたジミーが「『透明人間』の方が傑作なのに」とつぶやく場面。素直に喜べばいいのにそれができない。いつだって他人を見下し、愚かな周囲の人々が自分の才能や芸術を正当に評価できるはずがないと考えているかのようです。何を言っても「お前たちに何がわかるか」という不遜な態度。こういう性格が許されるのは思春期までです。人間は大人になれば、多少は周囲に迎合しながら生きている。「下らない連中だ」と仮に思ったとしても、それをこの映画の主人公のように露骨に顔に表したりはしない。彼がそうやって生きてこられたのは、映画スタジオという特殊な社会にいたせいでしょう。そこでは才能さえあれば、どんなに常識はずれな行動も性格も許されたのです。

 タイトルは『フランケンシュタインの花嫁』の台詞からの引用ですが、この「神」と「怪物」は主人公のジミー・ホエール自身を表している。彼は優れた感受性と才能を持つ「神」であると同時に、自分自身の出自や心の傷を隠しながら生きる孤独な「怪物」なのです。彼はひとりの若者と出会うことで、自分自身の過去や心の傷と生まれて初めて正面から向き合う。しかしそれでも彼の自尊心は、ようやくできたかもしれない友を傷つけずにはいられない。なんとも悲しい物語です。

 この映画は昨年のアカデミー賞で脚色賞を受賞。他にもさまざまな賞を取っていますが、日本では劇場未公開。ビデオが出ていますが、この映画はスクリーンで観てこそよさがわかるはず。ぜひ劇場にかけてほしい作品です。

(原題:GODS AND MONSTERS)


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