映画
クレヨンしんちゃん
嵐を呼ぶジャングル

2000/04/11 東宝第1試写室
悪役のパラダイス・キングがナイスキャラだ。これは面白い。
大人も感激間違いなしの劇場版最新作。by K. Hattori


 毎年のお楽しみ『映画・クレヨンしんちゃん』の最新作。僕は現在プロの映画批評家として仕事をしているわけですが、駆け出しの新米ライターなので、試写の案内さえあればどんな映画でも観るようにしている。そうやって間口を広げておかないとメシが食えないのです。僕はサラリーマンをやりながら一般の映画ファンとして映画館に通っていた頃も年に200本ぐらいは映画を観ていたし、選り好みせずに何でも観るように心がけていた。でも子供向きの『ドラえもん』『名探偵コナン』『クレヨンしんちゃん』などはさすがに観なかった。これらの映画は年間の興行ランキングでは常に上位に入って来るんだけど、大人が観るような映画ではないと決めつけていたのです。それがプロになって、試写室で『クレヨンしんちゃん』を最初に観たのは2年前。それで僕は「こんなに面白い映画があったのか!」とカルチャーショックを受けてしまった。邦画を熱心に観ている映画ファンには申し訳ないけれど、今は劇場で公開される日本映画よりTVドラマの方が面白いし、劇場で公開される日本映画の中ではアニメが一番面白い。シリーズ化されている現役の邦画には『釣りバカ日誌』があるけれど、それと『クレヨンしんちゃん』を比べたら、断然『しんちゃん』の方が面白いんだよ。これはマジですぜ。

 今回の映画は南海の孤島が舞台のアドベンチャー巨編。豪華客船から大人たちを誘拐したサル軍団を追って、しんのすけたちがジャングルに分け入っていく。そこで見つけたのは、サイケなペイントを施した廃船と、そこを根城にサルの王国を築くパラダイスキングというファンキーな男だった。サルの世界に君臨するだけでは飽き足らなくなったパラダイスキングは、人間を奴隷にしてさらなる王国の発展を夢見ていたのだ。

 前作では怪獣映画へのオマージュを捧げて大人の映画ファンを感激させた『しんちゃん』ですが、今回のテーマは懐かしの変身ヒーローもの。仮面ライダーの戦闘員は「キキー」としか言いませんでしたが、パラダイス・キングの戦闘員もサルだから当然「キキー」と叫ぶ。映画のクライマックスは南海のジャングルの王者パラダイス・キングと、架空のヒーロー、アクション仮面の一騎打ち。「アクション仮面は絶対に勝つぞ」「正義は負けないぞ」というしんのすけの声援に、フィクションであるはずのアクション仮面が奮起し、それに大人たちも声援を送るという場面には涙が出そうになった。子供の声援でヒーローががんばるだけなら、面白くも何ともないのです。アクション仮面がフィクションだということを知っている大人たちが彼に声援を送りはじめるところに、この映画の最大の感動があるんだと思う。わかってるんだけど、やっぱり泣かされてしまうんだ。

 画面を埋め尽くす無数のサルたちを描くのに、今回はCGを使っているようです。音が前後左右に飛び回るドルビー・デジタルの迫力もなかなか。騙されたと思って、一度は劇場で観てほしい映画です。


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