ガラパゴス

2000/03/29 東京アイマックスシアター
ダーウィンが「種の起源」を書くきっかけになったガラパゴス諸島。
その自然を陸と海の両方から描く3D映画。by K. Hattori


 ガラパゴス諸島の豊かな自然を、アイマックスの3Dカメラで撮影したドキュメンタリー映画。案内役は生物学者のキャロル・ボールドウィン博士。ダーウィンが世界で初めて進化論を唱えた「種の起源」にインスピレーションを与えたこの島を、ボールドウィン博士はダーウィンの足跡をたどるように案内して回る。ガラパゴスゾウガメの甲羅の形の違いや、小鳥のくちばしの違いといった小さな違いをダーウィンは事細かに観察し、そこから進化論という大胆な仮説を生み出したのです。歴史上、人類にもっとも大きな影響を与えた書物はまず間違いなく聖書ですが、その次に大きな影響を与えたのはダーウィンの「種の起源」かもしれない。進化論という考え方は、人間の世界に対する認識に大きな変化を生み出したのです。キリスト教世界の中では未だに「進化論と創造説のどちらが正しいか?」といった議論が起きるぐらいですから、「種の起源」という本はある面では聖書と拮抗する力を持っているのかもしれません。

 ボールドウィン博士は専門が海洋生物学ということで、映画の後半はアクアラングでの水中調査や、潜水艇を使ったガラパゴス諸島近海の深海調査の場面になります。むしろこのあたりが、この映画のクライマックスでしょう。透明度の高い海の中を、無数の魚が群れを作って泳ぎ回る場面を3Dで観るのは、かなり迫力があります。カメラは壁のように立ちふさがる魚の群の中に、ぐいぐい突っ込んでいく。魚の群が巨大な渦を作りながら泳ぐ様子や、カメラに反応してサッと方向を転じるくだりは、観ていてゾクゾクしてきます。青い海の中をゆったりと泳ぐシュモクザメ(ハンマーヘッドシャーク)の群れは、SF映画の宇宙船のようで幻想的です。深海探査の様子も、まるでジェームズ・キャメロンの映画『アビス』や『タイタニック』みたいでドキドキしてきます。浅い海で泳ぐ魚の大群のようなドラマチックさはありませんが、深海の生物にはどこかユーモアがあります。掃除機のような採集管を近づけても、逃げることなく簡単に捕まってしまうのも、どことなく滑稽です。

 撮影されている映像はなかなか面白いのですが、ドキュメンタリー映画としてはコンセプトが未消化だと思う。映画の前半でダーウィンの足跡をたどるのなら、例えばゾウガメの甲羅や小鳥のくちばしの違いはスケッチではなく映像で見せるべきです。「種の起源」に描かれたコースをきちんと回って見せた上で、ダーウィンが覗くことのできなかった海の底へとカメラを潜らせるべきでしょう。また、ガラパゴス諸島という孤立した環境で種が独自の進化を遂げるという理屈はわかりますが、海洋生物はすべてひとつながりの環境の中で暮らしており、孤立しているわけではありません。だからガラパゴスの特異な環境と、海中の生物とを同列に比較して「ガラパゴスは陸も海もユニークな生物がいっぱいです」とは言えないと思う。そのあたりに、映画の主旨の不徹底ぶりをつい感じてしまうのですが……。

(原題:GALAPAGOS)


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