バイバイ、ジャック

2000/03/17 東宝東和一番町試写室
殺人事件に巻き込まれた酔っぱらい新聞記者の運命は?
北アイルランドを舞台にした犯罪コメディ。by K. Hattori


 舞台は首相選挙を間近に控えた北アイルランドのベルファスト。主人公は地元のタブロイド紙に籍を置く飲んだくれの新聞記者ダン・スターキー。連日のように二日酔いで遅刻するダンに、上司は相当のお冠。「特ダネを拾ってこい!」と言明されたダンは、それでも公演で缶ビールをがぶ飲みしてレロレロの酩酊状態になっている。そこで知り合ったのが、美大生のマーガレット。妻を愛するがゆえに「マーガレット、いけないよ」などと彼女の好意を拒むダンだが、一度キスを交わせば「男は一度にふたりの女を愛せるかも」と考え直すダン。陽気な酔っぱらいのダンは、基本的に楽天家なのである。

 ところがせっかく仲良くなったマーガレットは、彼が少し部屋を離れた隙に何者かに殺されてしまう。最後に彼女が言った台詞は「デボーシング・ジャック(離婚したジャック)」だった。ダンは部屋の周囲をうろつく謎めいた人影に飛びかかるが、それはマーガレットの母親だった。飛びかかった勢いで、罪もない母親は首の骨を折って死亡。このままでは2件の殺人事件の濡れ衣を、ダンがひとりで被ってしまう(そのうち1件は濡れ衣じゃないけど)。しかも悪いことに、ただの美大生だと思っていたマーガレットは、有名な政治家の娘だった。事件は大々的に「テロ事件」として報道され始める……。

 マーガレットを殺したのは誰か? 彼女が言い残した「離婚したジャック」という言葉の意味は? 複雑な政治情勢が渦巻くベルファストで殺人事件の容疑者となったダンは、カトリックのIRA、プロテスタントのULF(アルスター義勇軍)、警察、イギリス軍、ギャングたちから一度に追われることになる。これはもう、四面楚歌どころの騒ぎじゃない。絶体絶命の中できりきり舞しながら、ダンは事件の真相を探っていく。巻き込まれ型スリラーの原則を守りながら、主人公を楽天家の酔っぱらいに設定したのはコーエン兄弟の『ビッグ・リボウスキ』と同じ。でも『バイバイ、ジャック』はそれよりさらに手が込んでいて、場面の展開もスピーディー。北アイルランドの政治情勢を皮肉りながら、物語は二転三転して最後は思いがけない結末へとなだれ込む。主人公ダンを演じるのは、『セブン・イヤーズ・イン・チベット』『シャンドライの恋』のデヴィッド・シューリス。主人公を助ける謎の尼僧役で、『エイミー』『マイ・スウィート・シェフィールド』のオーストラリア出身女優レイチェル・グリフィスが途中から登場するが、これが滅茶苦茶にかっこいい。主人公が絶体絶命の時に颯爽と登場する姿には、思わず拍手喝采!

 全編にみなぎるサスペンスとユーモア。次々に繰り出されるギャグの数々に大笑いし、テンポのよさにぐいぐい引き込まれていく面白さ。「ケルティック・フィルム・フェスト」で上映される映画の1本で、今のところ日本で劇場公開される予定なし。でもこの映画は、僕が今年観た映画の中でもトップレベルの面白さだった。たぶんどこかの配給会社が買い付けるとは思うけど……。

(原題:Devorcing Jack)


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