透視する女

2000/03/14 GAGA試写室
他人の性的妄想を読みとれる女が見た本当の恐怖とは。
すっごくつまらない。眠い映画です。by K. Hattori


 5人の映画監督がビデオ撮りで5本の中編作品を作る「MOVIE STORM」シリーズの第3弾。今回はシリーズのプロデューサーも兼ねている伊藤秀裕が監督しているが、同シリーズの『通貨と金髪』『歯科医』に比べても明らかに見劣りする内容になっている。そもそもストーリーにヒネリがないし、見せ方にもまったく工夫がない。このシリーズは「エロス」「セクシャル」が売りなのに、肝心の性描写も生ぬるくて少しもドキドキしないぞ。主演は元・少女隊の安原麗子。こうしたセクシャルな役は初めてということだが、とにかく脱ぎっぷりが悪い。男たちの妄想にもてあそばれるという役なのに、胸も見せないとは何事だ! 僕は別に彼女の胸が見たいわけではないけれど、胸を隠そうとするあまり、不自然なカメラアングルになったり身体の動きがぎこちなくなったりするのはすごく白けてしまうのだ。

 主人公の山岸和美は平凡なOLだが、他人が自分に対して抱く性的妄想を読みとる不思議な能力があった。会社では同僚の冴えない男が自分にフェラチオさせている場面を目撃し、同じ職場の若いOLは自分とレズビアン関係になる欲望を抱き、電車の中では痴漢行為の妄想に襲われ、宅配ピザの男は空想の中で自分をレイプする。たいていの妄想には慣れっこになってしまった彼女だが、ある日誰かの頭の中で自分が切り裂かれ、血まみれになっている姿を見て慄然とする……。

 同じ話を描くにしても、少しずつヒネリを加えればこの映画の10倍は面白くなるはず。例えばこの映画では、主人公が読みとった男たちの妄想の場面をフィルター処理し、観客に一目で「この場面は男たちの妄想だ」とわかる仕組みになっている。じつにつまらない。これらの場面はそれ以前の日常の場面から連続させて、その場では現実なのか妄想なのかわからないようにした方がいいと思う。そうすることで、最後に彼女が襲われる場面も「ひょっとしたらこれも現実ではなく妄想なのでは?」という疑惑を抱かせ、それが「間違いなく現実だ」と確信したときの衝撃や恐怖も大きくなる。

 そもそもこの話、なぜ数々の性的幻想が「男たちの妄想」だと決めつけられるのかが疑問なのだ。この映画には、ヒロイン本人の性的幻想がまったく描かれていない。彼女の実際の男性関係や、欲望の処理方法について一言の説明もない。ひょっとしたら彼女は欲求不満なのではないか。彼女は「他人の妄想」を読みとっているのではなく、彼女自身の中で芽生えたセックスのファンタジーを、他人に投影しているだけなんじゃないだろうか。だからこそ彼女は、他人の性的視線をあえてあおるようなスタイルで通勤したり、肌もあらわな姿でピザの宅配を受け取ったりするの。そうすることで初めて、彼女は自分自身の妄想を他人に投影できるのだろう。映画の冒頭に登場する朝食風景からして既に、彼女のナルシストぶりがうかがえる。彼女は自己愛の果てに、妄想の中でしかセックスできなくなってしまったに違いない。


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