アシュラ

2000/03/02 徳間ホール
ストーカー男に生活のすべてを奪われた女の復讐劇。
インド映画なのでミュージカル場面もあり。by K. Hattori


 インド映画は長い。それを久々に痛感させられた2時間50分のマサラ・ムービー。男たちに虐げられてきた女たちが、我慢に我慢を重ねて最後は復讐するという映画。主演はこれが日本初登場のマードゥリー・ディークシト。彼女を執拗に追いかけ、追いつめるストーカー的な敵役にシャー・ルク・カーン。『ラジュー出世する』や『DDLJ/シャー・ルク・カーンのラブゲット大作戦』で爽やかなキャラクターを売り物にしていた彼が、この映画ではヒロインに横恋慕してつけ回し、彼女の人生をメチャメチャに破壊するサイコ野郎を熱演している。

 スチュワーデスのシヴァーニーは、友人のパーティーでヴィジャイと名乗る青年に言い寄られる。ヴィジャイは金持ちの御曹司でハンサムな男だが、性格は不遜傲慢で鼻持ちならないところがある。シヴァーニーは彼の誘いを一蹴するが、それまで女性に振られたことのないヴィジャイは逆に彼女にのぼせ上がってしまう。シヴァーニーは同僚のパイロットと結婚するが、それでもヴィジャイは彼女のことがあきらめきれない。彼は金に物をいわせてあの手この手でシヴァーニーに近づこうとするが、彼女は決してヴィジャイになびくことはなかった。「手に入れられない物は自分の手で壊す」をモットーにしているヴィジャイは彼女の夫を殺し、さらに自らナイフで顔に傷を付けてその罪を彼女に着せる。シヴァーニーは裁判での弁明も虚しく、懲役3年の刑を受ける。

 ヒロインはどこにも非がないのに、しつこい男に追い回されてどんどん悲惨な境遇に落ちていく。インドに根強い男女差別と、金でどうにでも動く権力組織。ヴィジャイはそんな世の中を知り尽くしている。ヴィジャイを演じたシャー・ルク・カーンは、好青年という顔の下に見える歪んだ人格を巧みに演じている。これは脚本の面白さでもあるけれど、彼はひたすら自己中心的で、自分にはまったく非がないと信じて疑わないサイコパスです。シヴァーニーを襲ったこそ泥を捕らえ、町中で彼女に対して「君が罰を与えるんだ!」と迫り、それを拒否されると「僕は何か間違ったことをしたか?」と聞くあたりはゾッとします。でも、こういう人っていそうだよな。

 彼女がどのぐらい悲惨な目に遭うのか、その詳細は書きませんが、とにかく想像を超えてます。最後は恩讐を越えてふたりが和解するのかと思ったのですが、そんな甘っちょろい考えは日本人だけに通用するものだったのかもしれない。激しすぎます。映画の後半になると、彼女が救われるための材料を次々に断ち切り、どんどん彼女をさらなる悲惨に追い込んでいく。この映画を作った連中はサディストです。極悪非道です。しかしここまで追い込むからこそ、最後の復讐劇に爽快感がある。後味は悪いけど、復讐のカタルシスだけは味わえます。

 主人公たちの名は「シヴァーニー=シヴァ神」「ヴィジャイ=ヴィシュヌ神」から取られているのだと思う。シヴァ神は破壊の神で、その妃がヒロインの崇拝する復讐の女神ドゥルガーです。

(原題:ANJAAM)


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