ファントム

2000/03/02 松竹試写室
人口400人の小さな町から人が消えた。彼らはどこに行ったのか?
製作総指揮・原作・脚本はディーン・クーンツ。by K. Hattori


 小説家のディーン・クーンツが、原作・脚本・製作総指揮を担当したホラー映画。出演はベン・アフレック、ジョアンナ・ゴーイング、ローズ・マッゴワーン、ピーター・オトゥールなど。監督のジョー・チャペルは『ハロウィン6/最後の戦い』という作品があるそうですが、日本では劇場未公開となったこの作品を僕は未見。映画の舞台は、どこにでもある平凡なアメリカの田舎町。診療所の医師をしているジェニーは、都会暮らしの妹を連れて数日ぶりに町に戻ってきた。だが奇妙なことに、町には人の気配がまったくしない。人どころか、犬や猫など、生き物の気配がまったくしないのだ。診療所の中で家政婦の変死体を見つけたジェニーたちは、あわてて駆け込んだ保安官事務所でも保安官の変死体を発見。これは伝染病なのか? 電話は不通。車もなぜか故障してしまう。馴染みのパン屋に飛び込めば、そこには作業台の上に残された手首がふたつ。オーブンの中にはパン屋夫妻の生首が転がっている。いったい町に何が起きたのか? ジェニーたち姉妹は異常事態に駆けつけた保安官たちと町の様子を探るが、そこで見たのは考えれば考えるほど奇妙な出来事の数々だった……。

 話の筋立てそのものに目新しさはないが、映画の前半は素晴らしいと思う。上映時間1時間35分のうち、前半の50分ぐらいはものすごく密度が濃いし、話の展開もスピーディーで小気味よい。物語が脇道や寄り道をせずに、ずばり核心に入っていく勢いの良さ。エピソードを出し惜しみせず、次々に大小の事件を起こして物語を引っ張っていくテンポの良さ。主人公たちが町に戻ってきて、町の異変に気づくまでがアッという間だし、そこから保安官たちと合流し、モンスターに遭遇するまでに30数分。ここから物語はピーター・オトゥール扮する学者を軍隊が拉致する場面になり、彼らが町に到着した時点で映画の開始から50分しかたっていない。

 ここまで前半のテンポがいいと、後半のだらしなさが気になる。「失速した」とは言わないが、前半の勢いを借りて「惰性で動いている」という印象を受ける。映画の前半は登場人物が少しずつ増え、空間的にも広がりを持つ展開ですが、後半はそれがまた縮小に転じてしまうため、「とんでもない事態で世界が危機に落ちる」という状況設定の大げさぶりが相殺されてしまう。こうした物語後半の規模縮小を、ドラマの凝縮という別の効果に転じられればよかったんですが、残念ながらこの映画ではそれに失敗していると思う。無人の町の中で孤立した主人公たちが、何とか外部と連絡を取って救援部隊と接触する。その上で再び孤立してしまうのだから、本来なら奈落の底に突き落とされたような恐怖があるはずなんですけどね。人間は絶望の中では死の恐怖など感じない。絶望して自分から死んでしまう人だっているぐらいなんですからね。一度絶望して死を覚悟した人たちが、「ああ、これで助かる」と安心したところで、再度絶望に突き落とすのが恐怖だと思うんだけどなぁ……。

(原題:PHANTOMS)


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