月姫系図

2000/02/24 TCC試写室
雷蔵が主演の時代劇だが、内容はいかにも幼稚。
宮川一夫の撮影技術は一流なのだが。by K. Hattori


 甲斐武田家が滅亡間際に残した莫大な軍資金。隠し場所の秘密は「風」「林」「火」「山」の4つに分けた栞(しおり)の中に隠されている。武田家滅亡から数十年。徳川家による天下統一がなされた中で、武田家の秘宝をめぐる陰謀がうごめき出す。文字通り四散した栞を一手に集め、財宝を手に入れるのは誰なのか……。昭和33年の大映映画で、監督は渡辺実、主演は市川雷蔵。複雑な因縁話を1時間15分というコンパクトな時間の中に凝縮した娯楽編だが、僕はまったく面白いと思えなかった。宮川一夫の撮影は確かに素晴らしく、室内の場面で人物をシルエットにするなど、フィルム感度の低さを逆手に取って劇的効果を生みだしている。これは今の感度のいいフィルムで同じことをやろうとしても難しいと思う。これなど感材の特徴を知り尽くしたプロの技術者なればこその仕事でしょう。ただ直前に『夜の蝶』を観ているので、それに比べると新鮮味はありません。いっそのこと、試写の順番を逆にしてくれればよかったのに。

 この映画のつまらなさは、隠し遺産をめぐるミステリーの要素に、まったく面白味がないことが原因です。「4つの栞を集めて始めて謎が解ける」と言うなら、もっと凝ったトリックを使って財宝への道しるべにしてほしかった。この手の宝探し映画というのはサイレント映画の昔から現代に至るまで無数に作られているわけですが、例えば最近の『レイダース/失われた聖櫃〈アーク〉』や『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』などに登場する「秘密の地図」は、映画の中でもっと劇的な効果を生み出します。この映画の栞も、工夫次第ではさらに劇的な映像効果を生み出すことが可能だったはず。地図が画面に登場したとき、「なるほど、そうなのか!」と観客がビックリしないとなぁ……。

 この映画の中では栞の裏に記された地紋が「卍」の形になるという場面がありますが、これ自体は栞を4つ集めなくても予想できちゃうんじゃないだろうか? 何より解せないのは、最後に謎を解くのが栞を4つ持っていない人間だという点。自分の手元に栞がなくても、他の栞に記された内容さえ知っていれば謎は解けてしまうのです。こんなのインチキだよ。どうせなら、何が何でも栞が手元にないと謎が解けない仕掛けを作ってほしい。栞を魔鏡のようにするとか、平板印刷の原理で4つの栞を使って1枚の地図を作り出すとか、考えられる方法はいくらだってあるはずなんですが……。

 短時間でまとめる必要があるからかもしれませんが、この映画は最初から最後まで予定調和。主役たるヒーローは常に敵より2手も3手も先を読み、チャンバラになれば無類の強さを発揮する。私事よりも公共の利益を考える。でもやはり物語の底は浅い。カラー作品なのでお金はかかっていますが、内容的には東映の『新諸国物語』シリーズと何ら変わらない。大の大人があまり期待してみると馬鹿を見る。大映の初期ビスタビジョン映画という意味で、映画史的な価値はあるかもしれない。


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