グリーンマイル

2000/02/16 GAGA試写室
『ショーシャンクの空に』の原作&監督コンビが作った新作。
3時間を超える映画ですが、よくできてます。by K. Hattori


 スティーブン・キングの同名長編小説を、キング原作映画の中ではもっとも良質で成功した映画の1本『ショーシャンクの空に』の監督フランク・ダラボンが映画化した作品。前回と同じ原作・監督コンビで、しかも今回もまた刑務所が舞台。さらに上映時間が3時間8分と聞いたときはウンザリしましたが、中身は充実していてまったく時間が気にならなかった。これは面白いです。物語の進展はほぼ原作通りとのことなので、これは原作が持つ面白さかもしれません。しかし文庫本で数冊に分かれている長編を、この時間にコンパクトにまとめたダラボンの手並みも鮮やか。骨組みがスッキリしてしまった分、物語の先読みも簡単になってしまいますが、緩急自在の演出で巧みに観客を引きつけて離さない。まさに名人芸。トム・ハンクスをはじめとする出演者たちも伸び伸びと演技しているし、映画ファン泣かせの引用や演出が随所にあって、それだけでも嬉しくなってくる。

 病気治癒能力を持った不思議な死刑囚と、彼を無実と信じる看守たちの物語です。原作はスティーブン・キングですが、そのタネ本は聖書と黄金伝説(聖人伝)。「無実の罪で処刑寸前の死刑囚」というハリウッドのミステリー映画では定番とも言える設定を用いながら、この映画が神話的な荘厳さを持っているのはそのためです。この映画の中では死刑囚ジョン・コーフィの苦悩や奇妙な能力が、福音書の中のキリストのように描かれています。彼を見守る看守たちは、十字架のキリストが息を引き取るのを看取ったローマの兵士であり、トム・ハンクス演じる男はさしずめ聖ロンギヌスです。しかし映画の中では、コーフィがキリストであることなど一言も語られません。また映画の中盤には、「聖クリストファーのお守り」というのが登場します。ジョン・コーフィの容姿その他には、聖クリストファー(クリストポルス)の影響がありありと見られます。『グリーンマイル』に登場するエピソードの半分以上は、聖書と聖人伝のエピソードを現代風に翻案したものだと断言できますし、あっと驚く印象的なエピローグも、元ネタはちゃんと新約聖書に存在します。

 元ネタがあったとしても、それは盗作でもないしパロディでもありません。この物語は聖書や黄金伝説に材を採りながら、そこからまったく新しい現代の物語を作っている。そこがスティーブン・キングの作家としての才能だし、それを脚色するダラボンの腕なのです。映画の前半で物語に緊張感を与えるパーシーという若い看守や、ミスター・ジングルと名付けられる芸達者なネズミ、映画の後半で登場する凶悪犯ウォートンなどは、この物語のオリジナルです。こうした人物(とネズミ)が登場しなければ、この映画は随分と貧しくなるでしょう。

 映画ファンを泣いて喜ばせるのは、アステア&ロジャースの名作『トップハット』が劇中で使われていること。名曲「チーク・トゥー・チーク」が感動を盛り上げます。『プライベート・ライアン』からの引用も、映画ファンを喜ばせることでしょう。

(原題:The Green Mile)


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