ハーモニーベイの夜明け

2000/02/15 徳間ホール
『愛は霧のかなたに』と『ショーシャンクの空に』を混ぜて水で薄めた映画。
邦題は開き直って『ショーシャンク』をマネしてます。by K. Hattori


 アフリカの密林で2年間も行方不明になっていたアメリカ人が、レンジャーを殺しの罪で逮捕された。だが牢に入れられた男は、人間の言葉を忘れてしまったかのように何も喋ろうとはしない。いったい彼に何が起きたのか? 優秀な人類学者であり類人猿学者でもあった彼が、なぜ殺人という大罪を犯したのか? かつてパウエル博士と呼ばれたその男は、海を越えてアメリカの医療刑務所に収監される。彼はの精神鑑定をするために、若く有能な精神科医テオが刑務所に派遣されるのだが……。

 『羊たちの沈黙』でアカデミー主演男優賞を受賞したアンソニー・ホプキンスと、『ザ・エージェント』で同助演男優賞を受賞したキューバ・グッディング,Jr.が共演したヒューマン・ドラマ。2年間の失踪中にパウエル博士の身に何が起き、何が彼を殺人に駆り立てたのかという謎で物語を引っ張りつつ、医療刑務所の中で日常的に行われている囚人たちへの虐待を告発する内容になっている。上映時間は2時間4分。大まじめに作った映画だが、これは失敗作だと思う。異なるテーマが1本の映画の中で同居できず、物語がふたつに分裂しているのだ。映画の原案となったダニエル・クインの小説「イシュマエル」は、“一人の人間とゴリラとの会話でつづられた哲学的な本”だそうだが、映画は出来損ないの『ショーシャンクの空に』に成り下がっている。

 パウエル博士のアフリカ体験が物語を引っ張る大きな謎になっている以上、それがすべて明らかにされた時、観客のすべてが「なるほど、そうだったのか!」と納得できる内容でなければならない。「なるほど、そういう事情があれば人殺しだってしちゃうよね」という同情を得ることなしに、この映画のクライマックスも結末もあり得ない。しかし僕はこの映画でパウエル博士が自分の体験を語り始めたとき、その内容にまったく納得できなかったのだ。彼の行動の動機が、アフリカでの体験にあることはわかった。しかし「だからって、何もそこまでしなくても」という気持ちも起きてしまう。パウエル博士の行動が、彼の思い入れ過多や自己憐憫によるもののように見えて仕方がないのだ。

 そもそも彼の体験談が、最初からある程度予想できてしまうのが問題。精神科医のテオが「彼は2年間ゴリラと一緒に暮らしていた」と最初に話してしまうため、パウエルがゴリラの群の中に少しずつ受け入れられて行くシーンには意外性がまったくなくなってしまう。おそらくこの場面は、パウエルにとって思いもしなかった至高の体験だったのだろう。でも観客はあらかじめ結果を知らされているので、「ようやくゴリラのところに行ったか」と思うだけ。ここは話の組立にもう少し気を配って、観客もこの場面でドキドキさせてほしかった。

 刑務所の描写も中途半端すぎる。これでは『ショーシャンクの空に』を上辺だけなぞっているだけだ。パウエルの最後の行動は、『カッコーの巣の上で』のラストシーンからの引用かな。陳腐すぎる。

(原題:INSTINCT)


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