ジャンク・フード・ジェネレーション

2000/02/01 TCC試写室
マフィアのカバンを奪った日本人男女の逃避行。
監督・脚本・主演は坂上忍。by K. Hattori


 俳優の坂上忍が監督・脚本・編集・主演した、アメリカが舞台のロードムービー。脚本の構成の荒さ、台詞の嘘臭さ、演出のぎこちなさなど、下手くそな部分がいちいち目に付く映画ですが、それはこの映画の「やる気」の現れです。いろいろな狙い所があって、そのために妙に力が入って全体にギクシャクしている。映画を観ればすぐにわかることですが、この映画にはどこかで観たような場面がとても多い。例えばヒロインのナレーションで映画が始まって物語が一度過去に戻り、最後にまたオープニングと同じ場所に帰ってきて終わるという循環型の物語構成。導入部のダイナーで見せるやたらと口数が多い主人公たちの会話と、台詞ごとに180度カメラを切り返す小津安二郎みたいな会話シーンの演出。原色を強調した画面の色調と、素早いカメラ移動や細切れカットで綴るオープニングタイトル。こうした場面からだけでも、監督がいろいろなことにチャレンジしている様子がうかがえます。そのチャレンジ方向は過去の映画の模倣がほとんどなのですが、結構うまくコピーしている部分もあるし、コピーを越えてユニークなオリジナリティにまで消化されている表現もある。

 英会話教師のアメリカ人を追いかけてアメリカまで来た25歳のアミは、彼がロスで恋人と同棲していることを知って大ショック。彼女は日本人スリのツトムと知り合うが、彼の行動はどこか謎めいている。海辺の公演で太った男の持ったカバンを発作的に奪ったアミは、中に大量の麻薬が詰まっているのを見てびっくり。今さら謝って返すわけにも行かない危険なブツだ。ツトムとアミは知り合いのルートからこれを売りさばこうとするのだが、彼らをマフィアの殺し屋が追い始める……。

 ツトムを演じているのが坂上忍で、アミ役は『極道懺悔録』『歯科医』の金谷亜未子。彼女は顔の角度や表情のちょっとした違いで、美人にも見えればブスにもなってしまう女優。『極道懺悔録』はブスだけど、『歯科医』はそこそこきれいに撮れている。今回の『ジャンク・フード・ジェネレーション』はその中間。とてもきれいに撮れているカットもあれば、疲れてやつれてひどくブスになってしまうカットもある。過去の作品を観る限り演技力のない女優ではないと思うんですが、今回の映画は笑ったり泣いたりという感情の起伏が大きな役で、ちょっと勝手が違ったのかな。クライマックス近くの笑う場面と、最後に泣く場面は、ちょっと芝居が薄っぺらになっていたように思う。台詞ばかりが前に出てしまって、彼女の身体が持つ存在感が希薄だった。

 いろいろとアラの多い映画なのですが、絵作りや芝居の組立には独特のセンスも感じる。今回の映画の問題点は主として脚本、特にダイアログにあるのは明白。狙いで長くしゃべらせているのでしょうが、長すぎて台詞だけがシーンから浮いてしまうところも多い。そもそもツトム役は、坂上忍の柄じゃないでしょう。それがそもそもの問題。とはいえ、次回作に期待できる監督です。

(原題:The Junk Food Generation)


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