トリックベイビー

2000/01/27 シネカノン試写室
強盗常習と連続殺人で警察から追われる少女ふたりの旅。
毒々しくて露悪的で悪趣味だけど可愛い映画。by K. Hattori


 16歳のクリスタルは、売春強盗(トリックベイビー)の常習者として、懲役25年の実刑判決。過食症の治療のため、まずは医療刑務所に送られる。そこで知り合ったのが、同じ16歳のサイクローナ。彼女はこの歳で終身刑を食らっている大物(?)だが、精神に不安定なところがあって治療中なのだ。ふたりとも一通りの治療が終われば刑務所行き。そこでは灰色の壁の中で老いさらばえていく人生が待っている。ふたりは警備が手薄な医療刑務所を脱走し、一路メキシコ目指して旅をする。ところが連続殺人鬼のサイクローナは、道で出会う人たちを次々に殺してしまい、一緒に旅をしているクリスタルは自分まで共犯扱いされはしないかと心配になる。刑務所と警察はふたりを必死に捜索するが、やがてふたりは国境を越えてメキシコに入国する……。

 『バッファロー66』のヴィンセント・ギャロ主演最新作、というのが売りになっている映画だが、ギャロが登場するのは映画の後半。この映画の実態は、ナターシャ・リオンとマリア・セレドニオ主演のガールズ・ロード・ムービーだ。熟女がふたり警察に追われながら旅をする『テルマ&ルイーズ』という映画があったが、この映画の前半はその少女版。人殺しカップルが旅を続けるという話は『ナチュラル・ボーン・キラーズ』であったり『カリフォルニア』であったり『バタフライ・キス』だったりする。要するに、話の着眼点そのものは特に目新しくない。この映画の面白さは、主人公の少女ふたりのキャラクターにある。幼い頃から犯罪に囲まれて成長してきたふたりは、犯罪者になるべくして犯罪者になった、ある意味では社会の犠牲者のような人種。しかし映画はそんなふたりにまったく同情しない。何よりも当のふたりが「私たちなんてこんなもんよ」と開き直っている。この映画は彼女たちの犯罪の原因を幼い頃の虐待体験に結びつけたりしているが、それはエンターテインメントのネタとして因果関係を明白にしただけで、そこから社会正義を訴えたり、大人社会を告発したりはしない。

 性格の悪そうなふたりが、映画を観ているうちにだんだんチャーミングな女の子に見えてくるのがミソ。特に連続殺人鬼でオナニー狂でレズビアンのサイクローナが、小さな傷つきやすい女の子に変貌していくのはうまい。最初はサイクローナを毛嫌いしていたクリスタルが、いつしか彼女を大好きになってしまう様子には説得力がある。レズビアン・セックスも登場するけど、ふたりの関係は恋愛というより、保護者と被保護者の関係に近いのだと思う。しかしどちらがどちらを守るかは、常に逆転し続ける。映画に登場するメタファーを借りれば、ふたりの関係は「ヘンゼルとグレーテル」なのだ。時には兄が妹を守り、別の場面では妹が機転を利かせて兄を救出する。しかし童話と違って、この物語にはふたりが家に帰るハッピーエンドは用意されていない。ふたりにはそもそも帰る家などないのだから……。この映画の最も大きなテーマは、「彼女たちに家はない」ということか。

(原題:Freeway II: Confessions of a Trickbaby)


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