ヴァージン・スーサイズ

2000/01/19 メディアボックス試写室
コッポラの娘、ソフィア・コッポラの長編映画監督デビュー作。
1970年代を舞台にした異色の青春映画。by K. Hattori


 映画ファンにとって、ソフィア・コッポラは「あのフランシス・コッポラの娘」であり、「似合いもしないのに父親が監督した『ゴッド・ファーザーPART III』に出演して映画をダメにした張本人」という程度の認識しかなかったのではないだろうか。そのソフィア・コッポラが、長編映画の監督としてデビューした。その作品がこの『ヴァージン・スーサイズ』だ。脚本も彼女本人が書いている。原作はジェフリー・ユージェニデスの小説で、日本でも「ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹」という邦題で翻訳出版されている。娘の監督デビューを、父親も製作者としての立場からサポート。キャスリーン・ターナーとジェイムス・ウッズが自殺する五人姉妹の両親を演じたのを始め、スコット・グレン、ダニー・デヴィート、マイケル・パレらが脇役としてゲスト出演するという豪華さ。五人姉妹の中心的存在、四女のラックスをキルスティン・ダンストが演じている。

 物語は1970年代が舞台だが、その当時に思春期を送った少年たちが、30歳を過ぎて過去を回想するという構成になっている。思い出の中心は、近所に住んでいたリズボン家の美しい五人姉妹。ある夏の日、末娘のセシリアが風呂場で自殺未遂騒動を起こしたのがすべての始まりだった。精神科医のアドバイスもあって、リズボン家では近所の子供たちを招いたホームパーティーを開くのだが、その最中にセシリアは再び自殺を図って、今度は成功する。残された家族は悲劇を乗り越え再び明るさを取り戻していくのだが、セシリアの自殺から1年も経たないうちに、残りの姉妹もすべて自殺してしまう。なぜ彼女たちは自殺したのか。彼女たちに何が起きたのか。この物語の中心には、そんなミステリーがある。

 出演者もスタッフも一流だし、個々の芝居の演出に奇をてらったところがないこともあって、映画はまずまずの内容に仕上がっている。しかし思春期の五人姉妹が短期間のうちに全員自殺するという異様な事件を描いたにしては、映画のタッチは軽いし、その真相に迫って行く踏み込みも甘い。五人姉妹や語り手になる少年たちの性格をきちんと描き分けていないし、現在と過去のカットバックもあまり効果的だとは思えない。10代の少年少女がぞろぞろ登場し、初めての恋やセックスに対する憧れが描かれているのに、思春期の肉体が発散するエロティシズムも漂ってこない。キャスリーン・ターナー演じる母親の怪物ぶりも迫力不足だ。これは脚本の問題と言うより、演出の歯切れの悪さだと思う。20代の監督の長編デビュー作としてはこれが手一杯なのか。

 物語は昔懐かしい'70年代だが、この映画ではそこがノスタルジーの対象になっていない。監督自身が実体験として'70年代に強い思い入れを持っていないせいだとは思うが、ほぼ同世代のポール・トーマス・アンダーソンは『ブギーナイツ』で'70年代をきちんとノスタルジーの対象として思い入れたっぷりに描いている。これは実体験の有無とは関係ないんだよね……。

(原題:The Virgin Suicides)


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