ミフネ

2000/01/07 メディアボックス試写室
田舎暮らしに舞い戻った男が、知恵遅れの兄と同居生活。
メイドの元娼婦とロマンスが芽生える。by K. Hattori


 『ミフネ』とは三船敏郎のことなのである。より具体的に言えば、『七人の侍』の三船敏郎のことなのである。自分の素性を隠して侍の一群に加わり、最後の最後までねばり強く戦って散った菊千代さまが、この映画の主人公なのである。しかしこの映画はデンマーク映画なのである。時代劇でもアクション映画でもなく、日本人俳優が登場するわけでもない。それでもタイトルは『ミフネ』なのである。「ああなるほど三船敏郎は世界の映画ファンにとってもアイドルであった!」と実感できる、日本人にとってはいたくナショナリズムを刺激される映画であると同時に、ベルリン映画祭で銀熊賞を受賞した世界的評価の高い映画なのである。監督・脚本のソーレン・クラウ・ヤコブセンはこの映画と同時期に『マイ・リトル・ガーデン』も公開されるデンマークの映画監督で、'70年代から映画監督として活躍している大ベテラン。同じデンマークのラース・フォン・トリアー監督らが提唱する「ドグマ95」に賛同し、ドグマ3番目の作品として作られた映画が、この『ミフネ』なのである。

 映画の面白さと観客動員は必ずしも比例しない。これは映画ファンなら誰もが肌で感じている事実だと思う。どんなにつまらない映画でも、宣伝が上手ければお客が入る。逆にどんなに面白い映画でも、公開規模が小さかったり、劇場が不便なところにあったり、上映時間がモーニングショーやレイトショーだったりすれば、マスコミが記事で取り上げてくれる機会が減って観客は少なくなる。こうして、つまらない映画が連日満席になり、1年に数本しか公開されない大傑作がガラガラだったりする不条理が起きる。でも試写はそうではない。マスコミ試写が混んでいる作品は、まず間違いなく面白いと考えて間違いない。宣伝材料が出回る前に行われるマスコミ試写では、「面白い映画だった」という口コミこそが来場者を集める決め手になるからだ。この『ミフネ』は、試写開始15分ほど前から補助イスが並べ始められ、上映の5分前には満席になってしまった。試写は昨年末から回っている。この混雑は映画の面白さを反映した物に違いない。期待は高まり、それは裏切られなかった!

 天涯孤独の身でありながら、仕事ぶりが認められて見事社長令嬢クレアのハートを射止めたクレステン。だが実際は、田舎に年老いた父親と知恵遅れの兄ルードがいる。彼はそんな事実を隠してクレアと結婚するが、その直後、彼のもとには父親が死んだという知らせが届く。兄を施設に入れるまで、彼が故郷でルードの面倒を見なければならない。家事仕事がまったくできないクレステンは、新聞広告でメイドを雇うことにする。やってきたのは若くて美しいリーバという女性。じつは彼女は娼婦で、ストーカーめいた電話から逃れるために田舎にやってきたのだ。あとはお決まりのロマンスが始まる。

 人間には誰にでも欠点がある。人間は誰だって寂しい。そんな人間の弱さを包み込むような優しさが、この映画にはある。一見地味な映画だけど、僕は大好きです。

(原題:MIFUNES SIDSTE SANG)


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