スティル・クレイジー

1999/12/21 SPE試写室
伝説のロックバンド“ストレンジ・フルーツ”が再結成される!
中年オヤジががんばるイギリス映画。by K. Hattori


 若い頃バンドを組んでいた中年オヤジたちが、「夢よ再び!」と音楽活動を再開してスッタモンダするというイギリス映画。《ロック版フルモンティ》というのはわかりやすいコピーで、映画も無難にまとまっている。無難すぎて意外性がないけどね……。ニール・ジョーダン作品の常連スティーブン・レイがメンバーのひとりを演じている以外は、ほとんど名前にも顔にも馴染みのない俳優ばかりが出演している。監督は『TINA/ティナ』『陪審員』のブライアン・ギブソン。

 メンバー同士の友情や確執をからめながら物語の前半ではバンドのツアーを描き、ようやくバンドが成功を収めた時点で解散の危機を迎えるというのは、『コミットメンツ』や『すべてをあなたに』『バンドワゴン』などと同じバンド映画の基本パターン。この映画では集められたメンバーが不惑をとうに過ぎたいい年の大人ばかりで、20年前のバンド解散にまつわる心のわだかまりをいまだに捨て切れていないというのがドラマの中心になってくる。バンド映画には有能なプロデューサー兼マネージャーが必ず登場するが、この映画では未熟な若者を導いてくれる年輩の人物など登場しっこない。50男を誰が導いてくれるというのだろう。問題はすべて、自分たちの内部で解決して行くしかないのだ。

 '70年代に一世を風靡したバンド“ストレンジ・フルーツ”のメンバーが、'70年代ロックのリバイバル・ブームに乗じて再起を図ろうとする物語。バンド解散後は多くのメンバーが音楽から離れ、ある者はコンドームのセールスマンに、ある者は屋根職人に、ある者は税金滞納で役所から追われるお尋ね者(?)になっている。メンバーの中心的な存在だったカリスマ・ギタリストは、数年前にひっそりと亡くなったという。ボーカルの男は何とか音楽業界の端っこにしがみついているが、10年以上のスランプで破産寸前。そんな彼らがほこりをかぶっていた楽器を再び取り出して、小さなライブハウスまわりから音楽活動を再スタートさせる。しかしそれは、解散時に植え付けられた心のしこりが、再びよみがえってくることも意味していた。ま、そんな話です。

 映画としての構成は悪くないと思う。人物配置もまずまず。マネージャーの娘を登場させるなどして、若い世代への配慮もしている。ただ、僕には彼らが「もう一度音楽やるぞ!」と20年間の堅気生活を捨ててしまう動機がよくわからなかった。一応の説明はされていますが、音楽のどこがそれほど魅力的なのかが、この映画からはうまく伝わってこない。たぶんこれは、'70年代のステージシーンを再現した部分に、めくるめくような陶酔感があまりないからだと思う。うまく再現してはいるのですが、そこにあるのは単なるステージ風景の真似事で、本物の持つ熱っぽさは感じられないのです。ここにもっと魅力があると、「あの時代をもう一度!」という主人公たちの願いにもっと共感できたと思う。面白い映画ですが、ちょっとパンチ不足でした。

(原題:Still Crazy)


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