ストーリー・オブ・ラブ

1999/12/08 丸の内ピカデリー2
ロブ・ライナー監督が描く『恋人たちの予感』の後日談。
主演はブルース・ウィリスとミシェル・ファイファー。by K. Hattori


 最近は成田離婚などという言葉もあるが、たいていのカップルは結婚と新婚時代に男女としての幸せの絶頂を迎え、その後は少しずつ落ち着いた夫婦の愛情と穏やかな生活へと移行して行く。ところが中には、こうした穏やかな移行に失敗し、結婚数年で急激に夫婦の関係が悪化してしまう場合もある。この映画の主人公ベンとケイティーも、そんな不幸なカップルだ。ふたりは子供たちがサマー・キャンプに出かけた1ヶ月ほどの間に別居を始め、いよいよ離婚に向けて一歩を踏み出す。

 監督は『恋人たちの予感』のロブ・ライナー。『恋人たちの予感』は主人公たちの結婚で幕を閉じたが、それから10年たって、ライナー監督は結婚の破綻という正反対のテーマに挑んだわけだ。物語の途中にインタビューに答える主人公たちの姿を挿入するスタイルは、そのまま『恋人たちの予感』のインタビュー場面を連想させる。これは当然意図的なものだろう。この映画は『恋人たちの予感』の続編なのだ。主演はブルース・ウィリスとミシェル・ファイファー。深刻なテーマだが、映画は最初から最後までコメディ・タッチ。大人数がベッドで会話する場面など、ギャグが上滑りして安っぽいウディ・アレンみたいになっている部分があるし、頻繁に挿入されるインタビュー場面がうっとうしく感じられることもある。ただこうした場面が「離婚寸前の夫婦」という主人公たちの状況を正視できるものに変えているのだ。ベッドで大喧嘩をする場面なんて、この多少お寒いギャグがなかったら悲惨で見てられないよ。

 原題は『The Story of Us』。これは主人公たちがそれぞれの一人称で語る「私たちの物語」という意味であり、同時に「アメリカの物語」という意味でもあるのだろう。要は「どこにでもある普遍的な物語」という意味だ。この映画の主人公たちのように、生活の中の些細なすれ違いで夫婦関係が崩壊してしまうケースはすごく多いはずだ。これはアメリカでも日本でも変わりないだろう。離婚原因のトップは、常に「性格の不一致」なのだ。これはなかなか厄介で、他人が話を聞いても「なんだそんな些細なことで」と思うようなことかもしれないが、本人たちにとっては絶対に妥協できないことだったりする。この映画では、仲睦まじいアツアツのふたりが些細な言葉のやりとりから一瞬にして大喧嘩を始めたり、気持ちや言葉が一方通行になってしまう場面が何度か登場する。こうした場面に身につまされる人も多かろう。

 それにしても、アメリカ人は夫婦喧嘩をするときも徹底的に言葉が飛び出す。夫婦関係を悪化させるのも言葉だし、夫婦関係を修繕させるのも言葉なのです。実際には言葉より先に手が出る人も多いんでしょうけど、例えばこの映画の夫婦喧嘩を日本に翻案すると、もっと陰湿でベタベタしたものになるような気がする。日本人は言葉で何かを伝える文化がないのかもしれない。映画の最後のミシェル・ファイファーの長台詞を、日本人の女優が違和感なく喋れるとは思えないよ。

(原題:The Story of Us)


ホームページ
ホームページへ