ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ

1999/11/25 松竹試写室
ヴィム・ヴェンダースとライ・クーダーが愛したキューバ音楽の世界。
登場する老ミュージシャンたちの表情が最高! by K. Hattori


 “ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ”は古いキューバ音楽のタイトルであると同時に、'30年代から'60年代にかけて実在し、幾多の一流のミュージシャンたちが演奏したという有名なクラブの名前。この映画のオープニングは、老ミュージシャンがこのクラブの跡地を探す場面から始まる。彼の名はコンパイ・セグント。92歳の現役ミュージシャンだ。やがて場面は、コンサートの開演を待つ会場のざわめきに切り替わる。この瞬間、映画と客席は一体になる……。

 ヴィム・ヴェンダースの最新作だが、それ以前にこれは優れた音楽ドキュメンタリーであり、素敵なコンサート映画だと思う。キューバの音楽界でかつて脚光を浴びた一流ミュージシャンたちが、キューバ音楽に惚れ込んだライ・クーダーの呼びかけで一堂に集まって作った「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」。そのアルバムは一昨年のグラミー賞を受賞したというが、僕はそんなこと少しも知らない。映画『ダンス・ウィズ・ミー』などのこともあって、「サルサのブームが起きるかな?」と思っていた程度。この映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』で演奏されるのはサルサだけではない。登場するミュージシャンたちの年齢に少しずつ差があるため、選曲はまるで今世紀のキューバ音楽史そのもの。

 ここ何十年か音楽活動の第一線から退いていたミュージシャンたちが、昔取った杵柄で再びスポットライトを浴びる晴れがましさ。この老人たちの表情がじつにいい。ライ・クーダーに発見されるまで何をしていたんだか知りませんが、「やっぱり俺たちには音楽しかない!」「音楽をやっててよかった!」という喜びと、「俺たちの音楽はすごいだろ!」という自信と誇りに輝いている。映画の中では歌手のイブライム・フェレールを中心に数人のミュージシャンを大きく取り上げていますが、僕はピアニストのルービン・ゴンサレスがすごいと思った。ピアノを前にすると卓越したテクニックとフィーリングですごい演奏をする彼も、普段はヨボヨボの爺さんなんです。ヨタヨタと歩いていく後ろ姿を見て、この人がキューバ随一の名ピアニストだなんて誰が思うでしょう。

 「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」はキューバ音楽の黄金時代を作りながら、ひっそりと忘れ去られようとしていた往年のミュージシャンたちに再び脚光を当てます。これが音楽でよかった。スポーツ選手ではこうはいかない。ミュージシャンたちの演奏はそれぞれの人生がそのまま演奏の味になっていて、聴いていてもじつに気持ちがいいのです。かつて一度は頂点を極めた人たちだけに、今さら「売れたい」とか「有名になりたい」とかガツガツしていないのがいいのかもしれません。純粋に音楽を楽しんでいる気分が伝わってきます。ジイサンたちの表情が少年みたいに生き生きして、本当に無邪気なのです。人生の終わり近くになって思いがけず浴びたスポットライトを、僥倖だと心得ている清々しさがあるのです。最後のコンサート・シーンも感動しました。

(原題:BUENA VISTA SOCIAL CLUB)


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