新選組

1999/11/17 メディアボックス試写室
黒鉄ヒロシの同名漫画を市川崑監督が完全映画化!
このアイデア。この楽しさ。この感動。by K. Hattori


 最新作『どら平太』の公開が来年初夏に控えている市川崑監督だが、ここ数年の作品には、シャープで都会的な昔日の面影は見られない。『四十七人の刺客』や『八つ墓村』の、いったいどこが面白いんだ! しかしその市川監督が黒鉄ヒロシの「新選組」をアニメ映画化すると聞いては、期待せずにはいられないではないか。市川監督はもともとアニメーターとしてキャリアをスタートさせた人だし、グラフィカルな表現では定評のある人。その市川監督がアニメを撮るとなれば、これは尋常ならざるものができあがるに決まっている。そして今回試写を観たわけだが、これには大いに驚かされました。この映画は間違いなく「漫画映画」なのですが、アニメではなかったのです。黒鉄ヒロシの原画を拡大コピーして厚紙に張り付け、それを切り抜いて人形劇のように動かしている。プレス資料には『ヒューマン・グラフィック崑メーション[三次元的立体漫画映画]』とありますが、要はものすごく原始的な人形芝居です。

 この映画の中では、近藤勇も土方歳三も沖田総司も、身の丈30センチほどの紙人形です。マンガの原画を拡大コピーして発泡スチロールの板に張り付けてあるだけなので、どこにも立体感はない。(必要があれば手や刀は別パーツで作られる。)ペラペラの書き割り状態。そこに小さなライトをたくさん当てたり、手で微妙に揺さぶったりして、細かな変化を生み出している。人間が2次元の人形だから、背景や小道具もすべて2次元。書き割りの背景の中で書き割りの人物たちが動き回ると、不思議なことにそこに生命が宿る。この奇妙な魅力は、スチル写真では絶対に伝わらないと思う。

 1時間半に満たない映画ですが、作られた紙人形は全部で1400体。人物は紙でできていますが、その他はとても本格的な映画です。照明も複雑だし、カメラは縦横無尽に移動する。すべてが手作りなので、この映画は下手なCGよりよほど手間が掛かっています。画面はカラー・スタンダード。音響はDTSです。中村敦夫、中井喜一、原田龍二、うじきつよし、石倉三郎、石橋蓮司、石坂浩二、江守徹など、ディズニー映画ばりに豪華な声の出演者たち。公開はユーロスペースだけなので、たぶん後からメイキングを含めたDVDソフトが出ると思う。

 映画は有名な池田屋事件から始まり、新選組結成に戻って、最後は近藤勇の斬首と沖田総司の死で終わる。新選組をテーマにした映画やテレビは多いのですが、その栄枯盛衰をこれだけコンパクトにわかりやすく、しかも感動的に描いた作品はないのではあるまいか。巧みな編集のテンポとリズム、時折実写映像をインサートする鮮烈なビジュアル感覚、終盤では紙人形の上に実際の雨を降らせるという大冒険まで行っている。極めて実験的な映画でありながら、ドラマとしても極めて完成度が高い作品。市川監督の不振ぶりに頭を抱えていた往年のファンたちも、これを観れば「市川崑健在なり!」と拍手喝采するに違いない。これはすごいぞ。


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