バニラ・フォグ

1999/11/16 FOX試写室
腕に自信のなかった若い女性シェフが恋の魔法で大変身。
ファンタジックでクラシカルなラブ・コメディ。by K. Hattori


 『ラストサマー』『スクリーム2』『クルーエル・インテンションズ』のサラ・ミシェル・ゲラーが、魔法の料理でお客を虜にする天才女性シェフを演じたファンタジックなラブ・コメディ。お相手はTVシリーズ「インディ・ジョーンズ/若き日の大冒険」や映画『パウダー』のショーン・パトリック・フラナリー。どちらも日本では今ひとつ知られていない顔だし、映画の内容もまるで古風で他愛のないもの。そんな理由もあって、日本では銀座シネパトスでの単館公開。タイトルの『バニラ・フォグ』というのも意味不明だし、配給会社のFOXは試写状も印刷していない始末。(コピー用紙に試写日程だけ刷ったものが郵送されてきた。)ビデオ発売前にとりあえず劇場にかけておこうという態度がみえみえ。しかしそんな映画の中に、とんでもない傑作があったりすることもある。この映画が「とんでもない傑作」だとは申しませんが、僕はかなり楽しめた。映画を観た後は、すごくハッピーな気持ちになれました。

 死んだ母親が残したレストラン「サザンクロス」の料理人として、叔母とふたりで店を切り盛りしているアマンダ。創業70年の伝統を持つ店は今でも常連客に愛されているが、経営状態が悪化して店をたたむことになる。アマンダは自分の料理の腕が母に及ばないことが恨めしい。ところがある朝、彼女は市場でひとりの男性に出会う。名前はトム・バートレット。NYの名門デパートで、店内の高級レストランを企画した男だ。その日の昼、彼は恋人とふたりでサザンクロスにランチを食べにやってくる。市場で「うちの名物はカニのナポレオン風」と言ってしまったアマンダは、なんとか料理をこしらえて彼に出すのだが……。この時から、アマンダの周辺で次々と不思議なことが起き始める。

 主人公の恋を中年の天使(?)が後押しするという、フランク・キャプラ風のアイデア。家族経営の小さな店を経営する女性と、近くにできた大資本の責任者が恋に落ちるという『ユー・ガット・メール』的な人物配置。(『ユー・ガット・メール』の原作はルビッチも映画化している。)食品棚のカニが手招きすれば美味なる料理が次々と生み出され、バニラの香りがする霧(タイトルの『バニラ・フォグ』とはこのこと)が店に漂えば男と女はたちまちロマンチックな恋に落ちる。主人公の作る魔法の料理やお菓子に人々は恋いこがれ、口にしたとたん感動の涙を浮かべる。まるでおとぎ話です。

 今どきよく恥ずかしげもなくこんな話を作ったと感心するようなストーリー展開ですが、こうした古典回帰は『普通じゃない』『ベスト・フレンド・ウェディング』『ユー・ガット・メール』などにも共通する、最近のハリウッドのトレンドなのでしょう。僕は最後のレストランのシーンに、ワーナーのミュージカルやアステア&ロジャースのRKO映画『踊らん哉』の影響を感じてニヤリとしてしまった。エンドクレジットで流れるのは、ロジャース&ハートの名曲「ビウィッチ」。やはり古典だ。

(原題:Simply Irresistible)


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